歯学部附属歯科衛生士学校は今  

文・写真 中野 愛子(Nakano, Aiko)   
歯学部附属歯科衛生士学校(教務主任)

 
 ▼学校創立まで 
 広島大学歯学部が昭和四十年に、附属病院は四十二年に創立されましたが、歯学部の完成目標を予定講座設置と卒業生の巣立ちを見るのみで終了とせず、大学院歯学研究科ならびに歯科衛生士学校、歯科技工士学校の併設をもってこそ創立目標の達成と、当時の学部長であった井上時雄先生が、病院長をはじめとする歯学部全教授ならびに多くの関係諸団体のご理解ある全面的なご支援を得て、これらの創立に粉骨砕身の努力を続けられました。
 このような経緯を経て、昭和四十七年大学院歯学研究科と歯科技工士学校が他大学に先駆けて創立され、本校はこれに続いて昭和五十一年四月に創立されました。
 しかしながら、本校における専任講師はいまもってわずか三名という貧弱な陣容ですが、何はともあれ、国立大学歯学部の附属歯科衛生士学校としては、東京医科歯科大学に次ぐもので、誇らしくもまた淋しい現実の中に活動しています。


 ▼目的と理念 
 歯科衛生士は、歯科医師の直接の指導のもとに歯科衛生士法に定められた歯、および口腔疾患の予防処置、歯科診療の補助および歯科保健指導を業とし、歯科保健医療の重要な一部門を担うもので本校は、これに必要な知識、ならびに技術を習得させ、専門教育はもとより、医療従事者としての人格形成をも含め、人々の福祉向上に役立つ歯科衛生士の養成という重大な任務を担っています。


実習風景



 ▼わが校の現状 
 そこで、いますこし校内事情をご紹介しますと、開校当初は歯科衛生士学校固有の建物はなく、霞キャンパスの北東にあった赤煉瓦の建物(医学部一号館)の二階にありましたが、現在は内外ともに整備され充実しています。
 学生定員は、一・二年合わせて約四十名という小世帯ではありますが、指定規則をはるかに超える授業総時間数二五一〇時間を、幸いにも歯学部と附属病院の教授をはじめとする大勢の先生方を講師に委嘱して、温かいご指導のもとに消化し、社会に望まれる歯科衛生士の育成を目指しています。
 最近は、歯科衛生士という職業もマスコミの話題にのぼり、これの占める社会的価値が一般に認められてきたことに、就職率一〇〇%ということも加わってか、本校を志望する者も、次第に高校卒のみに限らず、短大卒が入学してくることもあります。また、応募地域も中国地区に止まらず、全国的に拡がってきています。
 就職状況につきましては、個人診療所(開業医)が圧倒的に多く、次いで国公私立病院、企業歯科、保健所、施設(障害者)、歯科関連会社などへと幅広く就職しています。  


 ▼カリキュラム 
 次にカリキュラムの内容にふれてみます。
教養科目 心理学、英語氈E、化学、生物学、保健体育
基礎科目 歯科衛生士概論、歯科医療・病院管理学、口腔解剖学、局所解剖学、生理・口腔生理学、細菌・口腔細菌学、病理・口腔病理学、薬理・歯科薬理学、生化・口腔生化学、歯科理工学、栄養学、衛生学、口腔衛生学、衛生統計学
基礎実習 歯型彫刻、組織学実習、生理・口腔生理学実習、細菌・口腔細菌学実習、病理・口腔病理学実習、薬理・歯科薬理学実習、生化・口腔生化学実習、衛生学実習、口腔衛生学実習、臨床検査実技、滅菌消毒実技、予防実技、診療補助実技
臨床科目 予防歯科学、歯科保存学、口腔外科学、歯科補綴学、歯科矯正学、小児歯科学、歯科放射線学、特殊歯科、隣接医学、看護学、衛生行政・社会福祉、看護学、保険業務などがあります。
 その他、医療人として、また、女性としての身だしなみや話し方、あるいは衛生士の社会ならびに歯科医療分野における位置づけ、そしてそこから生まれる心構えや、衛生士の将来像についても教育しています。
 なお、歯科用器具・薬品・材料の基礎と臨床応用、そして衛生士の主要業務とされている歯石除去、口腔衛生指導をはじめとする広い範囲にわたる履修はもとより、学外有識者を講師としての特別講義を年間七〜十回程度、実施しています。
 また、幅広い教養、実践的な英語、隣接医学、公衆衛生学、行動科学、高齢者・障害者への対応、医療倫理、生命体あるいは病者への理解などに関し、医療従事者としての基礎的な共通知識と能力を具備する必要性から、従来より行ってきた研究発表会(研究論文集)の形式をさらに学習発表会(学習発表内容集)と改め、各人が幅広いテーマに取り組み、学生相互にその学習内容を発表し、話す能力の向上をも目指し、学問を追究するものに変更しました。
 学生自らがテーマを選んで決定することで興味をもって学習に打ち込むことができ、学習効果が上がっています。



 ▼実習 
 基礎科目を履修したのち、一年生の三月からは臨床実習に入ります。
 実習は歯学部附属病院において行いますが、具体的には約二〜三名ずつのグループに分けて、予防歯科、保存科、小児歯科、口腔外科、補綴科、矯正科、歯科放射線科、歯科麻酔科、特殊歯科総合治療部、薬剤部、病院事務部等で約一年間行います。
 その内容は自修、介補、見学、その他で一日の実習が終わる三時三十分ころからはレポート作成等にあてています。また臨床実習の間にも必要に応じて講義も行っています。
 その他にも、二年生の後期には、課外実習として、高校生を対象とした口腔衛生指導や、小児歯科が行っている母親教室へ参加し、小児や母親に対する歯科保健指導も行っています。


 ▼学校生活 
 次に、学校行事の中で学生が最も歓迎するものは、二年生になって実施される研修旅行です。例年十月〜十一月頃、三〜四日間の予定で実施されます。
 従来より、東京医科歯科大学附属病院の見学、衛生士学校との交流を図ってきましたが、最近は包括医療の実践施設として、全国的にも著明な広島県御調町の公立みつぎ総合病院の見学をはじめ、健康管理センター・老人保健施設・在宅介護支援センター・老人訪問看護ステーション・ケアハウス等の施設を巡っての研修に変更しています。
 この時ばかりは、少々のことは無理してでも全員参加が続いている状況です。
 他にも、本校と所在地区を同じくする霞地区には、医(総合薬学科・保健学科)・歯学部ならびに技工士学校の学生が自主的に共催する霞祭、あるいは七夕祭もあり、これには教官・事務官も積極的に参加する楽しい催しとなっています。また、歯学部学生のクラブ活動にも積極的に参加し、二年間の学校生活における思い出多い一ページとなっているようです。
 以上が本校の概要ですが、平成八年にはお陰により創立二十周年目を迎え、感慨深いものがありました。今後とも責任と自覚を持つ歯科衛生士の育成を目指す私たちにとっては、なお試行錯誤の毎日というのが偽らないところです。
 賢明な皆様のご来校を心から歓迎し、忌憚のないご意見とお力添えを願う気持ちで一杯です。

平成八年の創立二十周年記念祝賀会での様子



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