学内外交流のへの一試論  

文・ 鈴木 平(Suzuki, Taira)   
社会科学研究科博士課程前期  
 
 学内外交流の現状 
 広島大学はかねてより積極的に学術交流を行ってきた。その具体的な活 動が、学外から著名な専門家を招いての講演会、研究会などだろう。特に海外の研究者に来学いただいての学術講演会では、諸外国における第一線の研究動向をうかがえるうえ、高度に学問的な議論に接することもでき、深い感銘を受ける。
 来年創立五十周年を迎えるにあたり、わが大学の学術交流活動は、さまざまな分野でますます活発化するものと思われる。  ところで、私が時折感じることは、このような専門的学術交流活動に、学内でもっとも多くの割合を占める学部生が、どのくらい参加しあるいは関心を抱いているのだろうかということだ。
 大学は教育機関であると同時に高度な研究機関でもあるのだから、学会レベルの交流を推進し、そこから得られる知識の蓄積を諸研究活動に生かしていくべきだろう。しかし、大部分の学生が、こうした学内外交流活動の大勢を占めている専門的な研究会や講演会にあまり興味を抱いていない、という現状を見過ごすことはできない。講演会の開催者がいつも学生聴講者の人員確保に苦心していることからも、足を運ぶほど魅力を感じていない学生側の心理をうかがい知ることができよう。
 学外の著名な研究者を交えての学術交流が、貴重で有意義なことは間違いない。しかしこれに加えて、専門的な知識をもたない者でも肩肘張らずに聴講でき、かつ多くの新鮮な知識を得ることができるような、より総合的な意味での文化・社会学講演会が並行して行われることが望ましい。
 私はその講演者の候補として、さまざまな分野で地道に仕事を続けてきたアマチュア専門家たちを推薦したい。例えば西条の杜氏や瀬戸内海の漁師など伝統文化や農林水産業に直接携わっている方、民間レベルで地球環境保全運動に取り組んでいる方、福祉活動や芸術文化活動などを精力的に行っている方など、学会で発表する機会を持たないにしても、その道一筋に生きている専門家たちを招きたいと思うのだ。彼らの語る洗練された意識と一途な生きざまは、多くのメッセージが込められており、間違いなく傾聴に値するだろう 。


 アマチュア専門家たち 
  アマチュア専門家の例として、北海道千歳市郊外にあるウトナイ湖に目 を向けてみたい。多くの種類の渡り鳥の飛来地としてラムサール条約でも指定されており、小さいながらも国際的に重要な役割を担っている湖だ。ところが、今この湖へ流れ込む唯一の川「美々川」が、道の放水路計画によって枯れる寸前にある。この地域で長期間渡り鳥観察を行い、湖の存続のために尽力されている市民の方に、ぜひその現状をお話ししていただきたい。日本各地で起きている環境問題を考える重要な機会となるだろう。
 また私は今年七月上旬に、広島大学のある学生ボランティアグループが企画した、非常に印象深い講演会に出席した。「アジアの児童買春阻止を訴える会」の設立者が講師をつとめられた。アジアの各地域で多発している児童、女性への性的虐待の悲惨な実態を知り、悲しみと怒りで涙が出た。世界規模で取り組まなければならない諸問題をテーマとするこのような講演会が、今後はぜひ全学レベルで開催されるよう強く願うものである。



 充実した教育体制のために 
 大学の門を大きく広げ、多岐にわたる知識を学内に招くことにより、豊 かで柔軟な意識を育むことができる。
 学術的な交流がその主たる事業だが、学内ではなかなか知ることのできない現実社会の問題を幅広くとらえるために、地道に活動しているアマチュア専門家たちを招くことを提案したい。国内外問わず、何か一徹意味のある仕事に携わっている人々は、共感できて重みのある言葉を残してくれるだろう。そして、大学時代に巡り会う良き師の一人として、この偉人たちは必ず我々の記憶に刻まれることだろう。二十一世紀に向けて、わが大学が一層社会に開かれる一つのきっかけにもなるのではないか。



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