留学生は「民間大使」の自覚を |
私の出身の大学は、上海の復旦大学です。大学に入ってから日本語を勉強し始めました。中国従来の外国語教育は英語で、研究にしても、留学にしても、欧米志向が主流であることはご存知のとおりです。そのような中で、私がなぜ日本語を勉強し始めたかというと、日本の文明発展史、併せて日本が近代化に成功した事例に心が引き付けられたからです。 言い換えれば、日本に魅了されたところは、他の国で発祥した文明(古代の中国文明、近代の欧米文明)をうまく移植し、土壌の違う自分の庭の中で花を咲かせた点です。近代以降の中国にとっても、このような知恵と工夫がぜひとも必要だと思います。 二年前に広島大学での留学生活が正式にはじまりました。それ以前の一九九一年の夏に、「日中学生会議」のために日本(東京)を訪れました。四日間という短い訪問でしたが、現代日本の姿を初めて自分の目で見ました。あの時の東京の印象は夏の東京の暑さと共に、目と体に焼き付いたような気がしていました。 ところが、短期間の訪問と正式な長期にわたる留学生活の間に大きな違いがある、と広島に来てから感じ始めました。例えば、日本に対するイメージは、短期訪問の場合は、自分が短い期間に接した物事が良いか否かによって決められるのに対して、長期留学の場合、時間が経過するのと共に物事の現象はより複雑に織り込み、イメージが微妙に変わっていくのです。 長期留学のために、異国の町に住みはじめ、最初の忙しい時期が過ぎ、気分も興奮状態から徐々に落着いた状態に変わり、現在の私は、一方的に外部からいろんな印象を押し付けられた状態から解放され、自分の頭で物事を考えるようになりました。普通、より客観的かつ正確な結論を得るためには、確信→疑惑→確信→疑惑…のような繰り返しが避けられないものです。成熟した結論は、常にこの「否定の否定」規則から生まれるがゆえに、十分な観察と思考の時間が与えられた留学生にとって、日本のことを理解するには良い条件に恵まれていると言えます。 日本での留学生活は新鮮味溢れる毎日です。日本のことをもっと知りたいという気持ちが一杯で、祖国を離れた寂しさも忘れるほどです。ところが、実際には上海から広島までの距離は、直行便でわずか二時間で、普通の国内旅行よりも速く、思わず「天涯若比隣」の感覚がします。 日本と中国の両国は、お互いに本当に身近な存在ですけれども、両国間の距離というものは、実際の地理的距離よりも心理的距離のほうがずっと大事でしょう。そして、この心理的距離を縮めるには、両国の政府レベルの交渉・活動よりも両国の民間レベルでの交流・理解を進めるほうがずっと重要だと思います。この意味で、留学生である私たち一人ひとりが「民間大使」の自覚を持つべきだ、とつくづく感じました。
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