少しの勇気とアンテナを 

文・平谷優子
弁護士

 私が入学した当時の東千田キャンパス内部は、「昼なお暗い」といった状態で、「文学部の人骨標本が踊る」という噂まで本当かもしれないと思えるほどで、夜遅くは一人で廊下を歩くのもはばかられたものです。
 ですが、現在は東広島キャンパスへの移転も完了し、東千田キャンパスも整備され、そんな噂は今では「絶滅」しているでしょう。


教官との対話が財産

  入学してからの一年間、私は、あまり勉強もせず過ごしたのですが、二年の後期から一つ本気で取り組んでみようと決意し、それまで私にはとても畏れ多い存在だった教官室の戸を、思い切って叩き、質問などをぶつけてみました。すると、先生方はおおむねとても真摯に向き合ってくださいました。そうした教官との関わり合いの中で、初めてこの大学を選んでよかったと思えるよう になりました。そして、そのうちに同じ志を持つ友人とも知り合い、自分の進路をはっきり決める足固めができていったように思います。
 他大学出身の友人に、広大で私が教官の方々にいかにお世話になったかを語ると、大抵は「羨ましい」との答えが返ってきます。他大学においては、意外と学生と教官は直接に接する機会がない場合が多いようです。その点、広大の教官には学生に対して敷居を低く設定してくださっている方が多く、気さくにお話をさせてもらえました。そういう教官との会話の中で「学問の醍醐味のようなもの」を感じることができ、それは現在の私の大きな財産となっています。
 皆さんの中には、「自分が広大に来た意味」を見つけられずにいる方もあるかもしれません。そういう人こそ、少し勇気を持って、何か興味を引いたものの扉を叩いて見てはどうでしょう。ジャンルは、学問に関する必要は全くありません。広大生には、興味あるものを見つける自由及びその素材は、保障されているはずです。


社会へのアンテナを張ろう

 今の広大にデメリットがあるとすると、それは、東広島キャンパスにおけるその環境かも知れません。私自身は、広大のまさに「広大な」自然に囲まれた環境はとても気に入っていましたが、その中だけで暮らすことはやはり少し危険な気がします。
 ほとんどの学生はそのうち大学を巣立ち、下界に降りるごとく社会に飲み込まれる以上、社会に触れて免疫力を高めておくことは不可欠です。そのためには、世の中の流れや、人の動きに常にアンテナを張っていろいろな情報を収集しておくことが大切だと思います。
 一番お勧めな情報収集方法は、Eメール等からのデジタル情報ではなくて、昔ながらの生身の人と接して得る情報です。これは収集が一番面倒くさいし、厄介ですが、一番免疫がつくし、間接的に自分の生き方にまで影響を与えてくれることがあります。具体的な問題として難しい場合があるかもしれませんが、いずれにしても、社会へのアンテナを張っておくと言う意識だけは、忘れず持っておく必要はあると思います。
 以上、勝手なことを書かせていただきましたが、要は自分で働きかければ何でもできるし、逆に何もしなければ何もできないのが大学だと思います。勇気とアンテナを持って、悔いのない大学生活を満喫してくださいね。

プロフィール
(ひらたに・ゆうこ)
◇一九八九年四月 広島大学法学部入学
◇一九九三年三月 同卒業
◇一九九三年四月 広島大学大学院社会科学研究科入学             
◇一九九五年十一月 司法試験合格
◇一九九六年三月 広島大学大学院社会科学研究科修了
◇一九九六年四月 司法研修所入所(実務修習地福岡)
◇一九九八年四月 弁護士登録




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