広大生への提言 

文・石崎 等陸
(株)シンコー
取締役営業本部長

  自己紹介と職歴について

 昭和三十九年、当時はそういう名称だった政経学部政経学科を卒業、現在の株式会社シンコー(舶用ポンプと蒸気タービンのメーカー)に就職して、すでに三十四年間もサラリーマンを続けている古狸です。
 在学中のゼミは統計学。従って就職前の面接でも、新しく導入を考えている電算機のシステムを担当するよう要望されたように記憶していたのですが、入社二年目から営業へ、それも海外を担当してきました。お陰で海外駐在も経験し、客 先を尋ねて世界中を旅行することもできました。今営業担当の役員として勤務していますが、新入社員の時から営業以外に配属された経験が全くありません。
 我々の卒業した当時は現在とは違って日本の景気は大変良く、ほとんどの同級生は乞われて大企業へ就職していきました。私もある大手企業を目指していましたが、丸の内にあるその本社での面接で、一緒にきていた東大生の態度と会社側の広大に対する軽視がうかがえてやる気を失いました。もちろん面接だけで不合格となりましたが、その後は大手嗜好は止めて以前から先輩を通じて誘いのあった今の会社への入社を決めました。
 入社当初は大企業に就職した同級生が羨ましく、自分の選んだ道に誤りがあったような情けない気分になることも多々ありました。しかし、あと数年で還暦を迎える今、自分の進んだ道がまさしく自分の人生にふさわしいものであったと確信できるようになりました。それだけ社内の安定した地位とやり甲斐のある仕事を持ち、心休まる家庭を営んでいます。五十歳前半で職場を離れ新しい仕事を探す必要もありません。
 寄らば大樹の影かもしれませんが、将来のある、経営者がしっかりしている中小企業はこの地区にも少なくありません。そんな会社で自分の実力を懸命に働かせてみてはいかがでしょうか。


広大生に望む

 まず学生の本分である勉強についてお願いしたいのは、確実に自分の得意な分野を習得しておくことです。最近の新入社員を迎えて感じることは社会人としての生き方は、要領よくマスターしているのですが、大学では一体何を勉強してきたのですか、と質問したくなる人たちが少なくないのです。
 簡単な英語の文法すらわからない方がいます。誰でも知っていそうな漢字が書けません。このことは基礎的な学力であり大学での勉学以前の問題かもしれません。
 次に大切なことは、明るい性格です。これは天性のものであり簡単に自分の性格を変えることは困難でしょうが、「ネアカ」の性格は社会に出て大変得をします。実力伯仲の二人のどちらかを選ばねばならない時、まず性格が選定基準になります。
 今一つ必要なこと、それは隠された闘争心をもっていることです。キリスト様やお釈迦様の慈愛に満ちた生き方は表面的にして、厳しい競争社会に生きてゆくのですから常に隠された闘争心を持ってください。ただし、表に出すことは厳禁です。
 最後の提案は月並みですが心身ともに健全であることです。優秀な逸材が、健康を害して落伍していくさまは悲惨です。時間に余裕がある限り、体を鍛えておいてください。社会に出てからは到底無理です。
 結論的に言って、広大生のイメージについて筆者が間違っていればお許し願いたいのですが、まじめで、こつこつと努力はするが、各々の人間的なスケールが小さく社会に出ても大成功することが困難で、大手企業の経営者までなれる人は、広大と同レベルの学校に比べ、ずっと少ないようです。同窓の一人として残念に思います。
 広大生へ辛口な意見に終始したようですが、栄えある広大の優秀な後輩の皆様が今後の頑張りでより発展されるための一つの警鐘とさせていただきたいのです。

プロフィール
(いしざき・ひとし)
◇一九四一年三月 出生
◇一九六四年三月 広島大学政経学部卒業
◇一九六四年三月 株式会社シンコーに入社
◇一九七三年十月 アムステルダム駐在事務所長
◇一九七七年十月 営業部貿易課長
◇一九八五年十月 営業本部営業二部次長
◇一九八八年五月 営業本部営業二部長
◇一九九七年八月 営業本部長
◇一九九七年十二月 取締役営業本部長                 




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