学部教育:到達目標とそのための教育手順の明示と共有 
 …「出口(就職)問題からみた教育改革への提言」中間報告を受けて

文・原田 康夫
学部教育運営委員会委員長

はじめに

 九月二十九日と十月十三日開催の学部教育運営委員会で、標記提言に基づく各学部での検討状況について中間報告を受けました。依頼した検討内容は、各学部の理念のもとでの到達目標(卒業時の学生像)、四(六)年間で付加する価値、そのために提供する教育プログラム・教育内容(カリキュラム)・教育方法、そして、卒業と認定するための到達レベル、さらには、そのような教育に必要な入学時の学生像(入試のあり方)などでした。
 報告は、教育目標の明確化、卒業要件、教育内容、転学部および編入学、入試のあり方ごとにまとめていただきましたが、ここでは、特徴的な事項を中心にその概要を紹介します。
 学部教育運営委員会では、今後もさらに引き続き意見交換をすることにしております。本年度末までに各学部の基本的方向をまとめ、来年度中にそれに基づく具体案を策定することになっております。


出口問題からみた学部教育

 出口問題からみた教育改革の重要性については、このたび公にされた大学審議会答申「二十一世紀の大学像と今後の改革方策について」でも述べられているとおりです。本学では、それに先立って大学計画委員会からの答申に基づき、独自に改革に取り組んできました。答申の基本は、学部教育は到達目標を明確に定め、いわば出口からみて学部教育を構築する、というものです。単に出口管理を厳しくするというのではなく、到達目標への到達手順を示すという形で構築されることは重要なことです。


学部教育改革の必要性

 各学部では、それぞれの学部教育の理念を定め、それに基づいて専門的教育がなされております。そこでは各学部の独自性と特徴が尊重されなければならないことは申すまでもありません。
 しかし、本学では、「広島大学学部教育の改革について(基本方針)」により、学部教育は専門的教育と教養的教育を一貫的・調和的に融合させて進めるという方針をとっております。ご存じのように、平成九年度から、四(六)年一貫・全学担当という原則のもと、教養的教育が実施されております。そのようなことから、各学部の専門的教育についても改めて検討することが必要になっております。
 このたびの検討のポイントは、先述したとおりですが、学生の到達度と卒業時の学生像、そして入学時に求める学生像を、社会に対して分かりやすく明示することは重要なことです。そして、それらを学生や教職員で共有することは、教育を進める上で非常に重要なことです。このたびの改革は、各学部の教育改革でありますが、全学で時期を同じくして行うことに総合大学としての大きな意義があります。


各学部の中間報告

 別表は、各学部の検討状況をまとめたものです。
・教育目標の明確化:なお抽象的な学部もあります。到達目標については具体的に示す必要があるように思われます。
・教育内容(授業教育方法)、及び教育方法:各学部ともいろいろ工夫しております。ほとんどの学部が、日本語も含めた外国語による表現能力や情報処理能力の向上に力を入れることを検討しております。
・入試のあり方:いくつかの学部では推薦入試の導入を検討しています。しかし、入学後に学生諸君が受ける教育との関係で、どのような入試が必要とされるか、あるいは入試を媒介としてつながっている高等学校教育との接続をどう考えるか、さらに検討される必要があります。入口(高等学校教育)の現状をふまえて、逆に到達目標や到達手順を考えるという視点も必要です。
 スペースの関係で表にはあげませんでしたが、卒業要件については、多くの学部が単位数を示しております。しかしむしろ、なぜその単位数が必要とされるのか、専門的教育、その中での必修、選択の割合、教養的教育の割り振りも含めて、その背後にある考えや理由を明示する必要があると思われます。それを学生諸君をはじめ学内外に示すことになります。また、転学部・編入学については、ほとんどの学部が前向きに取り入れようとしております。


今後の予定

 今後引き続き、カリキュラムの見直しや教育方法の改善、そして入試方法・科目の検討など具体案をご検討いただくことをお願いします。年度末には、このたびの中間報告をもとにまとめられた基本的方向を報告していただく予定です。
 十月二十日の臨時部局長連絡会議で承認された「本学の将来計画の策定に当たっての基本的な考え方」で明記しましたように、教養的教育のさらなる充実を含む学部教育の抜本的改革が重要であると考えております。大学院の整備・充実は学部教育改革と連動して取り組む必要があります。


「出口(就職)問題からみた教育改革への提言」に関する中間報告
学部名 教育目標の明確化、具体的な到達目標 教育内容(授業教育方法) 入試のあり方
総合科学部 新しい領域に対する知的関心、基礎科学、情報収集・分析応用力、自己提示能力の育成 ・プログラムによる教育体制の検討
・新しい科目分類と文理を越えた科目の新設
・総合科学ゼミの開設
・後期日程の配点の改善
文学部 学習者重視と基礎的総合的な教育。人文科学分野の幅広い基礎学力と専門知識を有し、人間性豊かな個性的な人材を養成。 ・インターンシップ制度の導入
・「情報科学」「実用英語」の開設
総合学科からの推薦入試の導入
教育学部 1学部1研究科に向けて検討中。    
学校教育学部
法学部 合理的かつ理性的な紛争解決をもたらす能力の育成。地方公務員、国家公務員沁試験、司法試験に合格できる学力、大学院進学、法務に関する実務能力 ・ケースメソッド方式や討論形式
・フィールド・ワーク等の授業形態の取り入れ、厳格な成績評価
・高校カリキュラムを踏まえた入試
・入学後の教育の重視
経済学部 幅広い教養を身につけさせ、社会的及び対人的に柔軟性と適応力のある人格形成。経済・経営センスをもつ人材育成。 ・学生の進路希望の実現に役立つ科目の開設(学外の実務家)
・職業意識啓発のための講義
・夜間主コースにおける実践的な授業科目の開講
・高校カリキュラムを踏まえた基礎学力重視の入試
・推薦入試の導入(昼間コース)
・資格試験合格者を対象とした推薦入試の検討
理学部 自然科学の基礎を修得し、真理探究への鋭い感性を持ち、幅広く深い教養に根ざした総合的判断力を持つ人材の養成。複合的専門知識を持つ人材の養成。 ・少人数セミナーの導入や受講時期の自由化
・受講選択自由度の拡大
・教職免許取得のためのカリキュラム検討
理科1科目が妥当かどうか検討
医学部 豊かな人間性と幅広い教養を持つ専門職業人。科学的思考力と創造性に富む人材の育成。医師、薬剤師、医療職国家試験の合格。 (医学)各講座の特性を生かした講義、実習
(薬学)実験実習、病院実習等を充実させ研究・病院実務の実際面の理解
(保健)講義偏重を避け、自己学習の習慣化やコミュニケーション能力の育成
(医学)学力試験のみによる入試の見直し
(薬学)基礎学力と幅広い興味と積極的学生受入れのための推薦入試の導入
(保健)教育目標達成のための選抜方法の検討
歯学部 総合的知的能力と問題解決能力を備えた人材の育成。
高度の医療技術を有する歯科医師の養成
・基礎実習科目は実習形式、一部の科目はチュートリアル教育を、臨床実習などは実践教育
・教育効果把握のための学生による評価を実施
・推薦入試及び後期試験における面接試験の導入
工学部 創造力豊かな人材の育成。人・社会・自然との関わりを重視した教育。基礎学力に基づく理論的思考力の養成。 ・知的自由な教育環境の創造(アドバンスト・プレイスメント制度、研究室参加型講義の実施)
・演習科目の充実
・学部共通科目の開設
 
生物生産学部 幅広い視野と基礎学力・応用展開能力を身につけた人材の養成 ・学生による授業評価の制度化
・各学年次生での履修単位数の設定
・成績評価等の厳格化
・卒業研究の水準の厳格化
・「学部就職型」「大学院進学型」のカリキュラム編成の検討
・総合学科、専門高校からの推薦入学の実施


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