自著を語る

『よくわかる精神医学: 精神病編』
 著者/ 西村良二
 (A5判,282ページ)2,884円
 1997年/ナカニシヤ出版
 

文・ 西村 良二


  わかりやすくて、おすすめできる本

   私は、医学部保健学科で精神科作業療法士の養成の仕事をしている。専攻は、精神療法、精神分析、児童・思春期精神医学であり、メンタルヘルスの研究もしている。
 大学病院精神科では週一回の思春期専門外来をし、保健管理センター霞分室で心理相談に応じている。そうしたなかで、学生に精神医学を語る機会も多い。その折り「精神医学を学びたいけど、どのような本を読んだらよいですか」という質問によく出会う。私は「弱ったなぁ」と思いながら、「実は、適切な本がないんだよ」と答えてきた。
 そのたびに「よい本を書かなくてはいけない」と思っていた。そしてついに着手したのが、「よくわかる精神医学」シリーズの刊行である。本書は、その第一巻なのである。


十倍面白くなる精神医学

一.わかりやすい精神医学の教科書であること
 精神医学はたしかに学びにくいし、教えにくいところがある。せっかく興味を抱いても、書店で精神医学の教科書をパラパラとめくると、「難しそうだなぁ」とあきらめてしまいがちである。精神医学や精神医学関連の授業を受けても、まもなく「知りたいのは、そんなんじゃないのになぁ」、「何か、期待していたのと違うなぁ」と失望と落胆のため息がもれる。
 その原因の一つは、ずばり、教科書が面白くないのである。本書は、何とか興味の湧く授業ができないものかと、日々の苦労の中から「精神医学を十倍面白くするぞ」という意気込みで書き上げたものである。
二.心理面をとくに重視している
 従来の精神医学の教科書は、主に医学生向けのものである。そのために、ちょっと値段が高いし、診断や検査には詳しいが、心理面については余りページがさかれていないことが多い。本書は、今までの精神医学の教科書の長所は残し、欠点を補っている。つまり、病者の生活や、内的な苦悶と葛藤をも描いている。このような人たちに、どのようにかかわり、どのような手をさしのべるかについて詳しく述べている。
三.コミックの活用
 病者の心理、ないしは家族の心理を描くうえでコミックを活用している。本書では、山岸凉子や手塚治虫、柴門ふみ、ジョージ秋山などの漫画が登場する。楽しみにして読んでもらいたい。


病気の本質を知り、正しく対処できるように

 第一章は精神分裂病、第二章はうつ病、第三章は躁病という構成になっている。精神分裂病は若い世代に好発するが、現代の薬物療法のお陰ですみやかに治るようになった。ただ、なかなか治療のレールに乗ってくれないことが多い。
 本書では、病気の本質を語り、治癒の経過、周りの人々による有効な援助を解説している。うつ病も薬でよく治る病気である一方、自殺の危険性が高い。自殺のリスクをどう評価するか、また「死にたい」と訴える人への対応のしかたについて述べている。躁病においては、薬物療法の有効性、再発の予防のための精神療法、本人や家族への対応を論じている。


あなたの大切な人のために

 大学生の諸君や職員の皆さんに願うことは、メンタルヘルスやカウンセリングの知識を身につけてもらい、悩める友人や同僚、後輩の力になってもらいたいということである。本書は、そのための一助になればと思っている。なお、 私は、総合科学部でも「行動病理学」という専門科目を担当している。臨床心理に興味のある学生諸君の受講を歓迎する。


プロフィール        
(にしむら・りょうじ)
◇一九四九年 福岡県八女市生まれ
◇一九七五年 九州大学医学部卒業
◇一九七五年 福岡大学医学部精神科入局
◇一九八九年 広島大学総合科学部助教授
◇一九九五年 広島大学医学部保健学科教授
◇専攻= 臨床精神医学、精神科作業療法
◇医学博士
◇その他の著書=『医療・看護・メンタルヘルスの心理学』(ナカニシヤ出版)『心理面接のすすめ方』(ナカニシヤ出版)
            




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