自著を語る

『国民の司法参加と司法改革』
   編/甲斐克則・紺谷浩司
 (B5判,223ページ)1,800円(本体)
 1997年/成文堂刊
 

文・ 甲斐 克則


  一.はじめに

 ここに紹介させていただく書は、一九九五年三月十一日に広島YMCA国際文化ホールにおいて開催された法学部移転記念シンポジウム「国民の司法参加と司法改革」(広島弁護士会共催)の記録である。したがって、「自著を語る」という本欄でこれを取り上げるのにはかなり躊躇を覚えたが、法学部広報委員の二代にわたる熱心な勧めもあり、重い腰を上げることとなった。
 むしろ、本書は、共編者の紺谷教授はもとより、阪神・淡路大震災直後に苦労してシンポジウムを成功させた実行委員と参加者各位、広島弁護士会の協力、そしてわが法学部スタッフの協力と熱意の賜物であることを最初に特筆しておきたい。


二.出版までの経緯

 まず、右シンポジウムの趣旨と出版までの経緯について語っておこう。この企画は、もともと、現代の裁判のあり方を多角的に研究してみようという法学部内の共同研究「現代裁判論」での議論から始まった。幾度となく議論しているうちに、たとえば日米の司法制度を比較してみても、日本の場合、立法、行政、そして司法という三権の中で、三権分立と言われる割には司法の比重があまりにも低いのはなぜか、という共通の問題意識が芽生えた。折しも、法曹界のみならず、経済同友会までが「司法改革」の必要性を説いていたこともあり、大学の法学部で研究・教育に携わる者として、今後この問題を避けて通れないのではないか、また、「国民の司法参加」なしでは「司法改革」も十分なものとはならないのではないか、この際、専門領域の枠を超えて、国民の声をも取り入れる形でこの問題に正面から取り組んでみようではないか。こういう問題意識から、この分野で活躍中の各方面専門家をパネリストとしてお招きし、阪神・淡路大震災がもたらした諸種の障壁や大学移転の諸種の苦労を乗り越えて、当日、盛会裡に終了した。予想以上の充実した内容であったことから、記録を残すならば、広く国民に読んでいただけるようにと出版計画をたてたところ、その趣旨を理解された成文堂が出版を快諾して下さり、苦労も実った。
 幸いにして、昨年までにすでに二刷となり、関係者からも「多忙な中にもかかわらず法学部主催でよくあのような充実したシンポジウムがやれましたね」との声を多く聞いた。


三.本書の構成と内容

 本書は、第一部「基調講演」と第二部「シンポジウム」から成る。基調講演は、九州大学法学部(現立教大学法学部)の井上治典教授による「法律家(司法)のピンチとチャンス」、神戸大学法学部の三井誠教授による「開かれた刑事司法」の二つを収めている。前者は、「国民の皮膚感覚」で司法のあり方・紛争処理を考えていけば、民事司法のピンチをチャンスに変えることができるということを具体例をふんだんに盛り込んで語っている。後者は、とかく閉ざされがちな刑事司法を国民に開かれたものにするにはどうすればよいかという問題を、「国民の司法参加」という観点から、捜査段階と公判段階に分けて、分かりやすく語っている。現在唯一国民が直接参加している検察審査会制度のほかに、陪審制度についても触れている。
 第二部「シンポジウム」では、まず、浅見宣義裁判官が「国民の司法参加と司法改革―裁判官の立場から、個人的意見として―」を体験に基づいて具体的に語っている。少年事件が目立つ昨今、少年事件における「補導委託」も、国民の司法参加のひとつだと言われたのが印象深い。二番目に、渡辺直行弁護士が「弁護士からみた司法改革」について、やはり体験に基づいて、弁護士会が率先して司法改革をやらなければならないことを熱く語っている。三番目に、鹿児島大学法文学部の指宿信助教授が「司法改革と陪審・参審制度」と題してその意義と問題点について、歴史的・比較法的分析も踏まえて詳しくかつ分かりやすく語っている。最後に、当時わが法学部の同僚であったカール・F・グッドマン教授(現アメリカ合衆国弁護士)が「合衆国における司法手続への市民参加」と題して、主としてアメリカの陪審裁判の土台となっている基本精神と具体的な訴訟形態について語っている(西谷教授の通訳)。私人がしばしば「私的な司法長官」と呼ばれて司法に機能的に参加している、という話は、きわめて興味深いものがある。
 以上の報告に基づいて、指定発言五名のほか、フロアーからの質問等も交え、活発な意見交換がなされた。それらは、今でも熱気を帯びて手に取るように再現されている。他学部の方や学生諸君もぜひとも一読していただければ幸いである。


プロフィール        
(かい・かつのり)
◇一九五四年 大分県生まれ
◇一九九三年四月から法学部公法講座教授       
◇専攻=刑法・医事法

            




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