学生の学内流動化 ─転学部 

文・安藤 正昭(Ando, Masaaki)
総合科学部コース委員長

総合科学部の立場

 一九九七年七月八日付けの大学計画委員会の答申に述べられているような、「揺れ動く青春期を生きる学生たちが、真剣に進路を模索し、変更を決断したとき、そのための道を造る」という趣旨に総合科学部は賛同している。これまでも学部の学科に欠員がある場合には、転学部が可能であったが、今回はこれをさらに進めて、学生定員に欠員がなくても一定の範囲内で転学部を認めようというものである(いわゆる欠員条項の削除)。
 平成六年の広島大学自己点検・評価委員会実施調査結果では、「一年生の約一〇%は自分の進路に疑念や不満を抱いている」ので、転学部の枠はこのあたりが判断基準になると思われる。また、総合科学部学生相談室でも、進路について年間約七十名の学生が相談に訪れているという現実があることから、強い反対意見がなかったものと思われる。
 逆に推薦入学の学生を今回の対象外としたことに対しては、強い反対意見があった。いったん広島大学の学生としたからには、同じように扱うべきだという主張である。
 実際に学生を動かす場合、総合科学部としては種々の問題に直面する。また学生が動いたことにより、さまざまな影響が出ることが予想される。以下にこれらの問題について思いつくままに述べてみたい。


転出・転入希望学生の指導体制

転出希望学生への指導
 基本的にはチューターが相談に乗り、学生の意思を確認することから始めなければならない。その際、その学生が総合科学部に対してネガティブな印象を持ったのであれば、チューターはそのことをコース委員会に報告し、今後の学部運営に生かさなければならない。最悪の場合、大量の総合科学部生が他学部に流れる事態も予想できるが、今回の転学部の趣旨からいっても、それを委員会や教授会で無理矢理押さえ込むべきではないと考える。要は魅力ある学部を作るしかない。幸い総合科学部の教官は一年生に接する機会が多いので、魅力ある講義を心がければ、最悪の事態は回避できると思っている。
転入希望学生への指導
 転入希望学生の受け入れの可否をどのようにして決めるかは、現在コース委員会と入試委員会で検討中である。ただコース委員会では「転学部生を別枠として扱う」ことにしたので、学生が希望するコースでやっていけるかどうかが一つの判定基準になると思われる。受け入れを決定したコースは、責任を持ってその学生を出口まで指導する義務が生じる。
<別枠の意味>正規に入学した総合科学部生には、従来通りのコース選択をさせる。転学部生は、第一希望のコースに定員の一〇%を目途に受け入れる。
 転学部生の第一希望が特別扱いされているという意見も出たが、これは今回の全学の趣旨に一番よく合致し、これによって正規入学者が不利益を被ることもないので、コース委員会で議決された。


今後の問題

学生に対する希望
(1)今回の制度の改正は、真剣に考えた学生を救済することが目的なので、制度を悪用する学生が出ないことを希望する。悪用する人が出ると運用が窮屈になり、真面目な友だちの首を絞めることになる。
(2)流行に流されることなく、自分の頭で考えてほしい(自分は自分なんだと主張してほしい)。自分を見つめて適性を判断してほしい。
学部体制
今回の学内流動化の処置は、学生の移動が具体的な目に見える形で進行するが、これによって学生に需要のある学部とそうでない学部が明瞭になってくるかもしれない。それが次に、学部の統廃合の基礎的データとして利用される可能性がある。全体の流れからいっても、大学や学部における情報公開・自由競争原理の導入は避けられない現状では、これを機会に学部の魅力をもう一度考え直す必要があるのかもしれない。


総合科学部とは

 広島大学総合科学部は一九七四年に発足し、以来総合性・学際性・創造性・国際性を追求してきた。学生に対する教育システムとしてはコース制を採り、現在人間文化コース、地域文化コース、社会科学コース、外国語コース、数理情報科学コース、物質生命科学コース、自然環境研究コース、生体行動科学コースの八コースがある。
 しかし発足当初から総合科学部は、新しい学部として絶えずチャレンジすることを義務づけられ、現在も時代の流れや社会の要請に応えるべく、新しい学部体制の模索が続いている。
 基本的には守り(伝統)より攻撃型の学部かもしれない。したがって何か新しいことをやりたいとか、従来の学問の枠組みでは物足りない学生にはふさわしいかもしれない。ただし何らかの成果を出そうとすれば、これまでの人類の知恵(知的財産)に立脚しなければならないので、基礎学力を重視する学部でもある。つまり総合科学部の学生は他学部生の二倍も三倍も勉強する必要があるということである。



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