故 森利一先生への追悼文

 森先生が亡くなられた。
 あまりにも突然のことなので、なかなか受け止められなかった。
 森ゼミに所属した当初、先生のおっしゃることはほとんど理解できなかった。先生は口頭で話をするときも、あたかも論文の章立てを頭の中で行って、論理的に話されるかのようだった。私たちは先生の話を自分なりに再構築するのに必死だった。
 やはり所属当初はあまり理解できなかった「平和」の考え方も、最近になって少しずつわかり始めた。平和は、国家が条約等の形で最終的に達成されるものであること(=民衆レベルの平和運動と、国家の抱える平和問題を、連動・混同して考えてはならないこと)、根本的に、民衆の感情的判断に政治が流されてはならないこと――このことを先生は主張したかったのではないだろうか。そしてこの主張は、「ヒロシマ」の今後とるべき方向を示唆しているように私には感じられる。
 先生は先日の印パ核実験問題を憂慮しておられた。「印パと核問題の両方に精通してないと今回の核実験は分析できないから、両方に詳しい自分(森先生)が取り上げたい」とおっしゃっていた。まさに研究に取り組もうとされていた矢先に入院されたのだった。
 研究半ばでのご逝去は、先生も心残りであろうと思われる。先行き不透明な昨今のアジア情勢において、先生の博識は必要不可欠であった。本当に惜しい先生がお亡なりになった。
 はなはだ僭越であることを承知の上で、先生の社会科学の考え方、平和への希求を卒業論文に体現し、ご霊前に報告したい。
      総合科学部総合科学科社会科学コース四年国際政治学専攻
        内藤 大義(ないとう・ひろよし)
        中谷  勝(なかたに・まさる)
        姫野  望(ひめの・のぞみ)




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