2000字の世界(25)

オーストラリアに留学して

文・ 長野 範子(Nagano, Noriko)
法学部四年生



ゲテモノ食いの日本人?


   オーストラリアで過ごした十か月間は、あっと言う間であった。何もかもが物珍しく、毎日が発見の連続であった。特に、日本とのつながりを発見することは面白かった。日本ブランドの車のコマーシャルをはじめ、アニメビデオ、柔道なども人気があるようであった。なかには、シドニーで忍術を習っている人もいた。物珍しく思えたのは私ばかりではなく、オーストラリアの人にとっても、日本とは物珍しい国であるようで、日本とオーストラリアの違いをよく聞かれたものであった。
 まずよく聞かれたのは、食事の違いである。「こっちの食事は口に合うか」、とよく聞かれたものだが、幸い肉料理がもともと好きな性質であったので、毎日続く肉料理には何ら問題はなかった。ただ、寮の料理は脂っこいので、私に限らず、他の人たちにも寮食は不評であった。ベジタリアンの人が多いので、肉を使わない食事も必ず用意されていたが、そのベジタリアンのメニューも脂っこいのである。寮にいると太る、というジンクスも納得できる。
 少なくとも私の周りには、日本食を食べたことがない人はいなかった。しかし、やはり食文化の違いは大きいなと感じた。私のお気に入りであったシーフードピザは奇妙なトッピングでしかなく、海藻は食料ではなく雑草とまで言われた。映画の一コマで、こんなシーンを観たことがある。主人公が「なぜ貴様は日本が好きなんだ」と聞かれ、「食べ物が奇妙だからだ」と答えたのである。


飲兵衛くらべ


 その次によく聞かれたのは、アルコールのことである。「日本人も、こんなにアルコールを飲むか」と、こんな具合である。日本人もオーストラリア人も、どちらもアルコールをよく飲むと思う(噂によると、交換留学先のニューイングランド大学は、アルコール消費量が、オーストラリアの中で一位の大学であるとか)。ただ、量によって違ってくることなのだが、悪酔いする人が少ない(いない)のはよかった。
 アルコール好きに関係するのか、寮生活はイベントでいっぱいであった。週に一度は、何らかのパーティーがあったように思う。なぜか木曜日に催されることが多かったので、金曜日に朝一コマから授業がある人は、朝が大変であった。


新緑のガウンで卒業式


 数多いパーティーの中でも一番心に残っているのは、"バリディクト(卒業生のためのパーティー)"である。このパーティーは来春卒業予定者のためのもので、私は今年が大学生最後の年であったので、新緑のガウンを寮から借り、主役の一員として参加した。このバリディクトが最後のパーティーでもあったので、いっそう心に残るものとなった。
 まず最初にバリディクトの人たちの名前が呼ばれ、それぞれ証書と記念ワイングラスを受け取り、バリディクト名簿に名を残した。次に、前菜、メインそしてデザートといったフルコースのディナーを食べながら、ジョークに満ちたスピーチを聞き、最後に、主賓の人たちが去って学生だけになったところで、バリディクトの人たちへのゴシップスピーチが恒例の出し物として行われたのである。私も、この一年間でやってしまった事などを、皆の前でずいぶんとばらされてしまった。


政治家からアウトローへ


 よく、英語は突然分かるようになる、というが、本当にそのとおりであった。だいたい、三か月ぐらいから、英語がすらすらと入ってくるようになっていったと思う。「英語が上達したね」と言われることは、何よりもうれしいことであった。
 初めは「政治家みたいだね」といわれていた私の英語も、皆と会話をしていくうちに、だんだんと口語調になっていったようだ。お酒が入ったりなどすると喜んで「放送禁止用語」などを教えてくれる人がたくさんいたので、いつの頃からか私の英語は、「アウトローだ」とまでに言われるようになってしまった。
 思ったことは、日常の中で使うか使わないかは、英語の上達力にずいぶんと違いが出てくる、ということであった。日本の中では、オーストラリアにいた時のように、ずっと英語を使い続ける、というのは難しいことではあるが、なるべく英語に触れつづけていこうと思っている。



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