自著を語る
『神々と英雄と女性たち』
著者/長田年弘
(新書判,209ページ)680円
1997年,中公新書
文・
長田 年弘
弱ったなあ、このタイトル
拙著は一九九七年に刊行しました。それにしてもこのタイトル、私は気にいってません。残念ながら。初めて書いた単行本だから、何かもっとカッコいい題名にしたかった。
本屋さんが言うには、「先生の本はヒジョーに専門的で、こういうの売れないんですよ」。本の題名は何といっても売れ行きに反映するから、あちらの要望に従う結果となりました。仕方ないね、出版社だってむろん商売だから。
不可解な信仰
拙著は古代ギリシア神話を、美術作品を通じて紹介した本です。ギリシア神話というと、ゼウスとかアフロディテとかいった、いかにもバター臭い感じの神々が登場して、お互いに浮気したり恋愛したり、何だか健康的かつ脂ぎった、よくわからない物語といったイメージを抱く人が多いかもしれません。まあそれはそれで間違いともいえないのですが。
ただ神話は古代人にとっては、単なる面白おかしい物語というだけではなかった。神話はギリシア人にしてみれば、立派な宗教だった。私たちから見ると確かにずいぶん不可解なのですが、人々はアポロンやアテナなんて神様を、実に真面目に信仰していた。
つまり、古代人と現代人とでは神話というものの見方に落差があるわけで、この落差に注意して、なるべく古代人になったつもりであれこれ考えて書いた本です。
切実な時代の切実な物語
ギリシア神話には当時の人々の生活感情が、生き生きと語られていることが多い。例えば戦争の物語がたくさんあるけれど、これは古代ギリシア市民が実際、日常茶飯事のように、戦争に巻き込まれていたから。実生活の裏付けがあって生まれた話なんです。だからこそ物語にも、躍動感があってめっぽう面白い。
こんな神話の世界を美術作品を通じて眺めてみようというのが、この本の趣旨です。古代ギリシア美術はといえば、これは物語に負けず劣らず素晴らしい。専門家ですから、この点は保証します。ギリシア芸術の繊細かつ明朗な美しさに、ぜひ親しんで下さい。
プロフィール
(おさだ・としひろ)
☆一九五八年生まれ
☆一九八二年 早稲田大学大学院文学研究科芸術学美術史専攻入学
☆一九八九〜九三年 オーストリア、ザルツブルグ大学古典考古学研究所在籍
☆所属=広島大学総合科学部人間文化コース
☆専門分野=西洋古典考古学(古代ギリシア、ローマ美術史学)
広大フォーラム30期7号
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