工学部長 松村 昌信 この標題は、平成九年から始まった総合科目(教養的教育科目)の授業科目名である。学長および各学部長・研究科長等がオムニバス方式で順番に九十分ずつ講義を行う。しかし、この標題では何を講義すればよいのかわからない。そこで私は自分の担当講義の題目を「工学部とは何か」としたうえで、この授業科目の最終目的は「広島大学とは何か」を学ぶことであろうと述べた。また成績評価のためのレポートは次のような課題にした。 「最近、急速に進んでいる少子化よって我が広島大学も規模を縮小せざるを得なくなった。しかも各学部の入学定員を減少させるだけでは対処しきれない。思い切って現十一学部を削減して五学部にしたい。新しいスリムな広島大学はどのような理念の下に設置されるべきか。割愛される学部の構成員でも納得できる根拠と構想を述べよ」。 このテーマには各学部の理念や特徴を熟慮しないと答えられないから、「広島大学とは何か」を学ぶためには良い課題だと思っていたが、新入生には少し難しすぎたようである。 大部分のレポートは現学部の合併による数合わせに終わった。例えば、教育学部と学校教育学部を合併して教育系学部、法学部と経済学部で法経学部、医歯学部、理工学部。あと三つ残った中から生物生産学部を単独で残す案が多かったことと、なぜ生物生産学部かという理由に興味をひかれたものの、こんな案ではその他のどの学部だって納得するとは思えなかった。 話題は変わって、工学部は昨年オーストラリアのQ大学と学部間学術交流協定を締結した。先方の学部は工学部ではなく、「工学・物理科学・建築」学部だった。外に「化学・生物科学」学部、「商業・経済・法」学部、「天然資源・農業・獣医」学部などがあった。広島大学の国際交流委員会で協定締結を報告した折りに「この大学では学部合併のとき喧嘩でもしたのでしょうか」と言ったら大笑いになった。 やはり昨年のことだが、米国のC大学から、新任の学長が二人の学部長を率いて広島大学にやって来た。C大学と広島大学との間に学術交流協定を早急に結びたいと言う。 二人の学部長とは「工・理」学部長と「建築・芸術・人間」学部長で、外にもオムニバス名称の学部が三つある。いくら何でも「あなた方も喧嘩したのですか」とは聞かなかったが、こんな学部名称になった理由を尋ねたら「自分は前回の学長指名委員会に、そのとき九つあった学部の数を五つに削減すると主張し、それで新学長に指名された。だから、その公約を実行しただけ」と答えてくれた。 海の向こうの学長の、なんとも荒々しい指導力ではないか。 話題は再び広島大学に戻る。つい先月、教育学部と学校教育学部が話し合って新しく教育科学部(仮称)になると発表された。良い名称だと思う。それで思い出したが、先に述べたレポートの優秀作に、二つの教育学部と総合科学部を統合して人間科学部にするという案があった。立派な理念が述べられていたし、実際に教育科学部が誕生したのだから人間科学部も近い将来に実現するかもしれない。新入生とはいえ、先見性も大したものである。 いや最も褒められるべきは「広島大学から世界が見える」という授業科目名を考えた人物であろう。まさに、広島大学を見れば時間的にも空間的にも世界が見えてくるではないか。 さて、この三月に広島大学を卒業・修了する諸君にとって、この総合科目を受講する機会がなかったことは残念である。しかし、工学部へ入学し、国際協力研究科や先端物質科学研究科を修了する諸君は広島大学の変わり目を経験したことになる。ぜひ、諸君の感想を伺いたい。 |