21世紀にむけて 学部は

  理学部の改組再編  

文・ 牟 田 泰 三(Muta,Taizo)理学部長

 理学部・理学研究科では、平成十一年度と十二年度にわたる二年の年次計画で、改組再編(重点化)を進める構想を持っており、その初年度分が実現の運びとなりました。ここではまず構想の概略を簡単に紹介した上で、重点化に至った経緯、重点化の意味、今後の方向などについて述べたいと思います。

改組再編のあらまし

 広島大学理学部・理学研究科には、平成十年度現在、数学、物理科学、化学、生物科学、地球惑星システム学の五学科があり、それに対応した同名の大学院専攻があります。この他にもう一つ大学院独立専攻の遺伝子科学専攻があります。教官組織は、これら五学科と遺伝子科学専攻及び附属施設とで構成されております。
 理学部では、新しい時代における理学分野の教育研究を整備充実し、さらなる成果を積み上げることを目指して、大学院理学研究科の専攻組織を図に示すように再編成する構想を持っています。
 すなわち、従来の六専攻を、数学、物理科学、化学、生物科学、地球惑星システム学、数理分子生命理学の六専攻に編成替えします。この改組再編により、大学院学生定員はいくらか増員されます。ここで、数理分子生命理学専攻は、数学科、物理科学科及び化学科の一部と遺伝子科学専攻(独立専攻)を再編成することによって創出された(協力講座として総合科学部及び総合情報処理センターからの参加を得ている)ものであり、数理科学、分子科学及び生命科学の三分野を統合する新しい時代の科学を切り拓く研究教育組織としての期待を担っています。
 この改組再編は二年間にわたる計画です。すなわち、平成十一年度にまず数学、化学、数理分子生命理学の三専攻を整備し、平成十二年度には物理科学、生物科学、地球惑星システム学の三専攻を整備すべく要求します。
 大学院の改組再編に伴い、教官の組織を学部から大学院に移し[要点一]、大学院における教育研究を重視するシステムをとります。それとともに、従来の小講座制を改めて大講座制を採用します。
 一方、学部教育ももちろん重要です。学部には教官組織を置かないわけですから、学部の教育は、兼担という形で行います[要点二]。これまで、教官組織を学部に置き、大学院教育を兼担の形で行ってきたのを、ちょうどひっくり返して、大学院に教官の籍を置き、学部の教育を兼担で行うというわけです。この際、学部の教育組織は、学科目制というものに移行します。学科は従来と同じ数学、物理科学、化学、生物科学、地球惑星システム学の五学科で、各学科の中では学科目という教育単位がおかれ、その学科目ごとに授業等が行われます。このように、大学院を重視しながらも、学部教育も従来にも増して充実させます。これらの教育研究面での整備充実を支援する財政措置として、一部の校費が増額されます[要点三]。
 従来の遺伝子科学専攻は独立専攻ですから、その基幹講座の教官は大学院の専任担当でした。従って、学部教育にたずさわる責務はないのですが、その代わり大学院の教育義務が重くなっていました(学生定員が多いなど)。今回、数理分子生命理学専攻を新設するに際して、独立専攻という形態を廃止しましたので(すなわち一般専攻となったので)、遺伝子科学専攻の基幹講座に属していた教官の方々も学部担当をすることとなり、大学院における教育負担は他の教官と全く同じになりました。また、両生類研究施設等の理学部附属施設は学部の附属ですが、これらの施設も改組再編と歩調を合わせて、大学院理学研究科の附属施設とする要求を行っております。
 本構想では、学部が五学科に対して大学院は六専攻です。名称の対応だけから言えば、数理分子生命理学専攻に対応する学科がないようにみえます。ここのところは誤解が起こりやすいので、特に注記が必要です。数理分子生命理学専攻の教官の学部担当は、数学、化学、生物科学の三学科を中心として理学部の全学科の学科目にまたがっています。他の専攻についても、原理的には、同じ名称の学科に必ずしも対応する必要はありません。学部五学科と大学院六専攻は一対一対応にはなっていないのです。このため、学部から大学院への進学に際して、選択の幅が大きく拡がります。
 学部教育に関しては、従来から生物科学科の学生定員が歴史的な事情もあって不自然に少ないという問題がありました。今後生物系の人材を育てていく上でも、これは無視できない問題です。しかしながら、十八歳人口が減少しているという現状を考慮すると、単純な学生定員増の要求は非現実的です。そこで、理学部の各学科の協力により、理学部全体としての学生定員を変えずに、各学科から少しずつ減員して、生物科学科の学生定員を十五名増員することができました。この学生定員の改訂は、平成十一年度(本年二月の入試)から実施されました。


重点化への道のり

 理学部では、数年来、大学院重点化を目指した改組再編計画を練ってきました。これに関連して、平成五年頃から、自然科学系三研究科(理学研究科、工学研究科、生物圏科学研究科)を改組再編して、十五専攻からなる自然科学技術総合研究科(仮称)を新設し、重点化を図る案が検討されましたが、諸般の事情で実現に至らず、その後、その構想は先端物質科学研究科構想へと発展しました。
 ご存じの通り、平成十年四月に先端物質科学研究科は、自然系三研究科の協力の下に独立研究科として設置されることとなりました。先端物質科学研究科の二つの専攻のうち、量子物質科学専攻の物質基礎科学大講座の教官は、理学部の学部授業を担当することとなりました。要するに重点化の対象となったわけです。これに対応するために、理学部では、それまでの物理学科と物性学科を再編して物理科学科を創設し、一部を学科目制にしました(大学院も物理学専攻と物性学専攻を再編して物理科学専攻としました)。
 一部重点化の対象となった先端物質科学研究科は、広島大学に重点化への突破口を開いてくれたわけです。これに力を得て、平成十年五月に理学部の改組再編(重点化)構想を文部省へ提案しました。これをうけて、平成十一年度、二か年計画の初年度として、理学部の改組再編(重点化)が承認され、四月からまず三専攻が先行して発足することとなったわけです。


重点化とは一体何だろう

 理学部の今回の改組を改組再編(重点化)という言葉で説明してきました。ところで、文部省関係の資料を見てみますと「専攻の再編成」と書いてあるだけで、「重点化」の文字はどこにも見あたりません。では、公に流布している「重点化」とはいったい何なのでしょうか。
 従来、大学における教官の組織は学部に置かれており、この教官組織を部局とよびます。学部(部局)では、学部教育と並行して最前線の研究もそこで進められてきました。また、大学院教育は、学部に基礎を置く教官の兼担によって行われてきました。
 昔はこれで何も問題はなかったのでしょうが、研究の最前線が進めば進むほど研究と教育の乖離は大きくなり、最新の研究成果を学部教育に反映させるなどということは、現実問題としては難しくなってきました。そこで、教官の組織(部局)を研究組織と見なして研究集団ごとに分類し、この研究組織(部局)から大学院や学部に教育に出向くという方式を取るのが現実的であろうと考えられます。しかし、この方式は法規上の問題があって、すぐに実行に移すことはできません(筑波大学はこの方式だと考えられます)。
 ここで考えられたのが、教官組織(部局)を学部から比較的研究の最前線に近い大学院に移し、研究と教育の乖離現象をいくらかでも緩和しようとするものです。この方式は、部局を大学院に移すので「大学院部局化」とよばれており、重点を大学院に移すという意味で「大学院重点化」ともよばれているわけです。
 では、「重点化」もっと正確には「専攻の再編成」の具体的な中味はどうなっているのでしょうか。理学部改組再編の概要を説明する中で[要点一]、[要点二]、[要点三]と書いてあったことにお気づきかと思います。それがまさに「重点化」の要点なのです。すなわち
1.教官の組織を学部から大学院に移す、
2.学部の教育は兼担という形で行い、学部の教育組織は学科目制とする、
3.教育研究面での整備充実を支援する財政措置として一部の校費が増額される、
という三つの事実によって「重点化」が特徴づけられていると考えられます。


おわりに

 理学部の改組再編は、広島大学全体の重点化への導火線であって、理学部は、広島大学全体へ重点化の波を広げていくための先兵としての役割を果たしたに過ぎません。広島大学が、二十一世紀へ向けて単に生き残るだけでなく、拠点となる研究大学として発展を続けていくためには、全学的な教育研究組織の整備充実を進め、教育研究の両面で優れた実績を残すことができるよう、学部の壁を越えて協力しあうことが大切だと思われます。
 このような視点で見たとき、広島大学のこれからの発展の基礎となるマスタープランを提示することはきわめて重要です。そのようなプランは、学長の提案を受けて現在検討されているところであり、広島大学の将来像を考える上での土台となるものと期待されます。理学部の重点化は、学長・副学長並びに事務局長をはじめとする事務局の方々の全面的なご支援と、全学的なご理解の下に達成されました。また、今回の改組計画にたずさわった理学部の多くの方々のご努力は並大抵のことではありませんでした。ここにすべての方々に御礼申し上げたいと思います。(平成十一年三月中旬記)
 




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