平成十年度工学部教務委員長 藤谷 義信 広島大学工学部にご入学おめでとうございます。きびしい受験環境の中、がんばり抜いて良き春を迎えられたことを心からお慶びいたします。工学部の教職員一同、皆さんが一刻も早く大学の学習環境や東広島市の住環境に慣れるよう祈念しています。 工学は機械系、電気系、化学系、建設系などの広い領域にわたっている学問です。また、それぞれの領域の中でも広がりがあり、さらに他の学部の学問領域と接したり結びついたりしています。 たとえば第四類建設系の中の建築の分野では、建築の設計製図、建築の構造設計、建築の環境・設備などを多岐にわたって教育します。建築の設計製図は空間を創造する能力や芸術的なセンスが要求されます。建築の構造設計では、高校での数学・物理や大学での応用数学・コンピュータ計算などが威力を発揮します。また、建築の環境・設備の授業では、人間や地球にやさしい建物を設計するための技術を教えます。これらの建築の専門授業を修めたのちに、建設企業等に就職すると、経済、経営のノウハウや法律の考え方が要求されます。病院を設計する場合は医療に関する知識が必要となります。雑学と言っては語弊がありますが、いろいろなことについての幅広い知識や知恵を積極的に吸収する姿勢がこれからの人生に必要となってくることは言うまでもありません。 建築の学問分野の話をしましたが、諸君が選んだ類の学問分野の中に、諸君の適性に合ったぞくぞくするような学問領域が必ずあります。興味をもって積極的に授業やガイダンスに臨んでください。広く教養を身につけてください。 最近、「工学」というものの定義をきちんとしようとしていくつかの定義が提案されています。たとえば、日本の工学教育について検討する会議では、工学を次のように定義しています。『工学とは、数学と自然科学を基礎とし、ときには人文科学、社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問である。工学はその目的を達成するために、新知識を求め、統合し、応用するばかりでなく、対象の広がりに応じてその領域を拡大し、周辺分野の学問と連携を保ちながら発展する。また、工学は地球規模の人間の福祉に対する寄与によってその価値が判断される』という定義があります。この定義は味があり、鋭く分析されているように思います。 諸君が選んだ機械系、電気系、化学系、建設系の工学の専門分野にこの定義をあてはめてみて、広島大学でこれから取り組む学習の参考にされるとよいでしょう。 工学部を卒業すると、いくつかの資格や受験資格が得られるのも魅力でしょう。しかしながら、受験資格が得られても一度で試験にパスするのが難しいものもあります。これは難しいのではなく、大学時代に専門に関する基礎的な授業科目をきちんと勉強していなかったためです。この大学時代に、学問や種々の技法の理解と、幅広い知識の吸収の両面から積極的に取り組んでもらいたいものです。 |