自著を語る
『多文化共生の教育』
著者/倉地曉美
(4‐6判,267ページ)
2,800円(本体)
1998年/勁草書房
『対話からの異文化理解』
著者/倉地曉美
(4‐6判,244ページ)
2,500円(本体)
1992年/勁草書房
文・
倉 地 曉 美
大学教師のエスノグラフィー
本著の舞台となるのは広大である。エキゾチックなもの、異国への憧れはあっても、自分の心の中に潜む「内なる異文化」に対する消極性や無関心な態度を私たちはどうすれば克服できるのだろうか、これが、広大で学生諸君と共に私が追求してきた大きな課題の一つであり、本著のテーマでもある。教育学部に着任してからの五年にわたる試行錯誤を本にしてみようと決意したのにはさまざまな理由がある。一つはグローバリゼーションや(教育の)国際化など、外なる異文化にばかり光が当てられる時代だからこそ、一人でも多くの読者に「内なる異文化」の問題について考えてもらいたいと思ったこと。二つには、フィールドワークの主体である私自身が自らを語り出すこと、その過程で自身を見つめ直し、多様な背景を持った読者から多声的なフィードバックを得ることによって、新たな『物語』を再構築するための活路を拓きたいと考えたこと。三つには日本の大学教育について書かれた本や論文は数限りなくあっても、本著のような大学教師のエスノグラフィーという形で大学教育の実際について書かれた本がないこと。つまり本著は、学生諸君と私との日々の共同作業によって産み出された副産物であり、大学教育が学生と教師の相互作用の所産である限り、そのダイナミズムを詳らかにすることが、何にもまして重要なのではないかという私自身の考え方を反映したものである。
「外なる異文化」と「内なる異文化」
前著『対話からの異文化理解』勁草書房(一九九二)は、外国人留学生との相互理解を深めるためには、受け入れ側の私たちが何をすべきか、私大の教員をしていたとき日々直面していた「外なる異文化」の克服というテーマに焦点を当てたが、本著はそれをさらに発展させたものであり、前著の姉妹版と言える。前著は国際交流に関心のある人に、本著は、教師を志している人はもとより、多様な異文化への気づきや異文化コミュニケーションに関心を寄せている方々にぜひ読んでいただきたい。建設的なコメントがいただければ何よりである。
プロフィール
(くらち・あけみ)
☆一九八二年イリノイ大学大学院教育心理学科博士課程修了 Ph.D.
☆一九八二年スタンフォード大学ポスト・ドクトラル・フェロー
☆一九八三年イリノイ大学行動発達研究所専任研究員
☆一九九〇年立命館大学国際関係学部助教授
☆一九九三年広島大学教育学部助教授
広大フォーラム31期1号
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