自著を語る

『演劇と映画』
  青木孝夫編
 (A5教科書判,409ページ)3,700円(本体)
  1998年/晃洋書房
 

文・ 青木孝夫


 レンタルのヴィデオを個室でみる。ストップや巻き戻し等、自在に機器を操作してドラマを楽しむ。あたかも読書の如く一人で。だが何とも演劇とは隔たった姿だ。  現在、ドラマの典型的イメージは、テレビのドラマであり映画館やヴィデオで観るドラマである。演劇はドラマの典型の地位を去ったかにみえる。
 劇(=ドラマ)に代わって人々の関心の舞台に登場してきたものに上演(=パフォーマンス)がある。また演出がある。今世紀の始めに本格的に登場した演出家あるいは監督は、L.D.やヴィデオにも明らかなように演劇にオペラに映画に君臨する。
 ドラマからパフォーマンスへという上演(映)芸術の大きな流れを準備した複製技術は、ドラマの長い歴史に新しい頁を開き演出を革新し舞台への関心を開花させただけではない。冒頭に述べたごとく新しいドラマの見方・映像の感受性をもたらした。
 このように「演劇と映画」を一くくりにするドラマ概念の変貌やドラマの増殖、更には演劇や映画の原点でもある上演や上映への関心、また創作・享受の両面に渡る演出の隆盛という新たな現代的事態は、複製技術の出現と大衆社会また情報社会の爛熟を背景に際立ってきた。
 本書は、この状況認識を敷衍し研究の枠組みとすべく企画された。新たな事態を自覚するための前提として、ドラマに関する伝統的な了解、映画の変容に関する認識、両者におけるイメージ・言葉・俳優・演出概念また機能の相違等に渡り、基本的な事柄も盛り込み、古今東西に渡る名作を分析し、本書には全部で十八本(内翻訳二本)の論考を集積した。
 執筆陣の半ばは、総合科学部で共に「演劇と映画」という総合科目を担当してきた教官である。
 本書は、幸いにも学問的雑誌でも好意的な評言をいただいたが、更に一般書店でも好評とのことである。これも既存のアカデミズムに抗し、講義の現場で開かれてくる問題を、各自の視点から活き活きと論述してくださった広大仲間のお陰と感謝している。


プロフィール        
(あおき・たかお)
☆一九五五年 山形県生まれ
☆一九八八年 広島大学総合科学部赴任
 専 攻   比較美学




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