留学生の眼(71)

  高い物価や文化・習慣の違いにびっくり  

文・ ムハマド・アクバル
医学系研究科留学生

日本人は働きバチ

 私がインドネシアのハサヌディン大学医学部から日本に来たのは、今から二年半前でした。日本の物価がインドネシアより五〜十倍も高いことに、まずびっくりしました。もっと驚いたことは、日本の研究者が夜遅くまで働いていることでした。私たちの国では月曜日から木曜日は、七時から十四時まで、金曜日は十一時半まで、土曜日は十三時までしか働きません。
 奇異に感じたことは、パーティ等に行くと、男の人ばかりで奥さんの姿を見かけないことでした。多分働きバチなので時間が取れないのだと思いましたが、聞くところによりますと、日本は男社会だからだということでした。
 さらにびっくりしたことは、私たちの国では入院すると多くの人がお見舞いに来てくれるのですが、日本では入院してもお見舞いに来る人が少ないことです。このことは、できるだけ他の人に言わないようにして、友人に迷惑をかけないと言う心づかいだと知りました。
 一方感心したことは、広島の街が綺麗で、安全で、自動車はクラクションを鳴らさず、運転マナーが大変良いことでした。さらに、広島の人々がインドネシアに大変興味を持っていてくれて、親切な人が多いことでした。
 平和公園の「国際図書館」や袋町にある「国際センター」は留学生にとって大変便利なところです。インドネシア語の新聞があり、日本語の個人授業があり、年に四回文化交流会も開かれています。
 ライオンズクラブや広島フハナス21は、毎月一回ボランティアと私達の交流会を開いてくれています。自分の国の料理を持って行ったり、そこで一緒に料理を作ったり、食べたり、ゲームをしたりします。さらに、インドネシア留学生交流会Selamat Datang(いらっしゃいませという意味)が年二回開かれています。
 なぜこの様に親切なのかと考えて見ました。たぶん老人たちは、第二次大戦の時にインドネシアに行ったことがあり、私たちの国に対してノスタルジアがあるからでしょうし、それに同じアジア人という心があるからだと思います。


日本料理はみんな好き

 ある時、父親みたいな人のところにホームステイに行きました。一回目にお伺いした時は言葉が分かりませんでしたので、お互いに身振り、手振りで意思の疎通を行い、二回目にお伺いしたときは少し話をすることができ、三回目には大分話すことができるようになりました。
 田植えにも行きました。これはインドネシアの田植えとほぼ一緒でした。秋には稲刈りに行きました。その米でモチを作ってもらって食べました。それは大変おいしいものでした。
 私たちの国では島により食生活は異なっています。私たちのスラウェツ島では、米を日本と同じようにして食べます。ある島では「タフ」と呼ばれる豆腐によく似た食べ物や「テンペ」と呼ばれる納豆によく似た食べ物があります。
 私は回教徒ですので、豚は食べません。アルコールもだめですが、タバコは吸っても良いのです。日本料理で、一番好きなものは焼き肉、魚、うどん、そばです。私たちの国では魚は塩漬けで、生の物は食べなかったのですが、今ではワサビの入ったおさしみも好きです。嫌いなものはまったくありません。小学校と保育園に通う子どもたちから教わった味噌汁は大変おいしいものです。日本の伝統食品の原型が私たちの国にあることには驚いています。


小・中学校で母国の紹介も

 広島の小・中学校では外国の文化を教えるプログラムがあり、時々招待され、私はそこでインドネシアの話をします。例えば「インドネシアという言葉は『島のインド』と言う意味です」から始まり、私の国は一万七千の島々からなる世界最大の群島国で、そのうちの約六千島のみに名前があり、そこにだけ人が住んでいること、東のスマトラ島、首都のジャカルタのあるジャワ島、スラウェシ島からカリマンタン島(ボルネオ)、西の端には西イリアン島があることを説明します。
 その広さは東から西まで四八○○nあり、飛行機で六〜七時間もかかり、ちょうどインドネシアから日本に来るまでの距離と同じくらいあること、これだけ広いので、島と島との交流は少なく、言語も三百種くらいあること、人口は約二億で、観光地としても優れた多くの場所があること、中部ジャワ、バリ島、スマトラ北東部などを訪れる人々が多くなっていること、日本と同じように温泉があることなどをスライドを使いながら話します。
 生徒たちからもたくさんの質問を受けます。たぶん私以外の外国人から色々な国の話を聞いているので、外国のことを良く知っているようです。このような勉強の方法は私の国では行っていません。
 今、日本と私たちの国の文化を比較しながら、家族と共に広島の生活を楽しんでいます。もちろん大学院で薬理学の研究を一生懸命続けていますので、今の私は日本人と同じ働きバチになっています。
(談)




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