進路の再検討やセクハラの相談にも対応 

−平成10年度総合科学部学生相談室活動報告−
文・岩 村  聡(Iwamura, Satoshi)
総合科学部講師
     
 平成十年度学生相談室への来談者数は、実数では減少、延べ数は横ばいだった。
 この年度は、転学部に関するルールが改正されて、転学部機会が拡大され、私たちも宣伝を強化したりして、その種の相談が増えた。また、「広島大学ハラスメントの防止に関する規程」が検討されるかたわらで、学生相談室にもセクハラに関する相談が持ち込まれるようになってきた。
 
 
一、カウンセリング

 来談者数は、実数で一七二名、一四%の減少。延べ数は五七七名、一%の増加であった。
 男女別来談者実数では、男性九十四名、女性七十八名で、ともに減少した。学年別では、一年生七十六名、二年生二十五名、三年以上四十二名、院生等二十九名で、三年以上だけがわずかに増加した。
 表は、来談者実数と延べ数の相談内容別内訳である。
 「修学・進路関係」が延べ数で増加し、「心理・適応関係」は実数・延べ数とも減少した。「転科・転学部」「留年・不登校」「就職」などの増加と、「再受験」などの減少が目立った。
 平成十一年度、学生相談室は、前年度と同様、専任カウンセラー一名、非常勤カウンセラー三名、事務補佐員一名の体制で、学生の相談に応じている。
 学生相談室は、広島大学の学生の相談なら、なんでも受けつける。
 勉強のしかた、成績不振、不登校、留年、休学、教員などの資格のとり方、留学、クラブ活動、宗教団体とのトラブル。進路変更、転科・転学部、大学再受験、就職、大学院進学、友達づくり、対人関係、先輩や教師とのトラブル。失恋、性格、自己開発、不安、劣等感、性的な悩み、セクハラ、いじめ、迫害。経済生活、契約販売やローンのトラブル。交通事故、大学への苦情、などなど……。
 あなたも、いつでも気軽に学生相談室を訪ねてください。
 また、不登校、留年、ノイローゼなど、指導困難な学生をかかえてお困りの先生方。どうぞご遠慮なく、学生相談室へご相談ください。
  実数(名) 延べ(日)

172 577
修学・進路関係 124 333
進路関係小計 78 190
  就職 4 29
  進学 1 1
  留学・旅行 1 1
  休学・退学 1 1
  転科・転学部 45 55
  再受験 2 3
  留年・不登校 12 86
  その他の進路 12 14
     
  勉学・研究 29 50
  課外活動 6 10
  その他 11 83
心理・適応関係 46 223
  精神衛生 24 140
  対人関係 13 38
  自己探求 9 45
  その他    
その他 2 21
  経済生活 1 1
  その他 1 20


二、グループ

 学生相談室は、学生等の自己理解・自己確立や対人関係の発展のための「グループ」も行っている。
 「オープン・フライデー」は、授業期間中毎週金曜日四時三十分から六時まで開いている。
 この年度は二十五回開催。参加者は実数十六名、延べ数一〇七名、平均四名であった。
 前期は参加者が大幅に増加して活発だった。後期は減少したものの、よい雰囲気の会が続いた。
 「土曜友の会」は、月一回土曜日午後二時三十分から五時三十分まで開いている。この会は、広大生のほか、卒業生や社会人にも開放している。
 この年度の開催回数は十二回。参加者は実数二十一名、延べ数七十九名、平均七名であった。
 この会の今後の開催予定日は、六月十二日、七月十日、八月十四日、九月四日、十月九日などである。
 これらの会は、お互いに最近の生活や当面している問題を話しあったりする「仲間の会」をめざしている。気楽な雑談を交わしたり、誰かが最近の生活や当面している問題を話したり、みんながそれに感想を言ったり励ましのことばを述べたりするような雰囲気になる。いずれも会員制ではないので、広大生なら誰でもいつでも参加できる。都合のいいときに(時間の途中からでも)自由に出入りしてもかまわない。参加者には、会費でお茶やお菓子やおいしいコーヒーなどが出る。二つの会の合同で、季節季節のコンパなども行っている。  こんなグループに、あなたも、気が向いたときに参加してみませんか?


三、転学部のルール改正をめぐって

 「転学部の取り扱いに関する細則」の改正は、十一月に公表された。「欠員」条項や「学年」に関する規定が改正されて、希望の学部学科に欠員がなくても、学年は二年生以上になっていても、転学部が可能になった。一月には各学部の受け入れ方針や、選考の方法などが公示された。それによると、すべての学部で転学部受け入れの可能性が示されており、教育、学校教育、法、経済、理、医、工、生物生産などの学部では、「選考方法」の中に、実技検査や試験や小論文や適性試験や試問なども含まれていた。この動きに応じて、私たち学生相談室も、色刷りのポスターを作成して各学部に貼ってもらうなど、PRを強化した。キャッチ・フレーズは「進路の再検討もサポート。あなたのオアシス、学生相談室」である。各学部事務室には、「直ちに転学部を出願させればそれでよいと思われる学生はともかくとして、出願に迷っている学生や、進路に悩んでいるが転学部出願では問題が解決しそうにない学生など、十分な相談援助が必要な学生がありましたら、当相談室への来談をお勧めくださるようお願いいたします」などと依頼した。
 この結果、十一月頃から「転学部」等の相談が増えた。相談内容としては、転科や転学部のルールや選考方法や過去の実績などの情報を求める相談が多かった。自分の進路決定の経過をふり返ったりして、よい意味で進路の見直しの機会になった感じの学生も少なくなかった。いったんはあきらめていた他学部への執着を、ルール改正によってもう一度思い出させられ、動揺している感じの学生もいた。既に不登校状態で、進路に行きづまっている学生の来談もあった。
 二月からは各学部で転学部願いの受け付けがあり、年度末にかけて選考が行われた。その結果は、私たちが入手したデータによると、出願者が四十三名、そのうち許可になった学生は九名であった。九名の内訳は、平成十年度生が五名、九年度生が四名。受け入れた学部は総合科学部三名、文学部二名、教育学部一名、学校教育学部一名、法学部一名、生物生産学部一名であった。
 二年次の学生が何人も許可されたことは、ルール改正前には考えにくいことだった。医学部への出願者は目立って多かったが、許可はゼロだった。次年度以後、私たちはこれらの結果を参考にしながら、相談に乗ることになるだろう。


四、セクハラへの対応

 この年度はまた、「セクハラ」に関して、さまざまな動きがあった年だった。
 私たちは、セクハラなどで困っている人が援助を求めてきたら、できるだけ力になりたいと思っている。
 とりわけ、被害の悪影響から立ち直って自由な生活を取り戻すことには、大いに協力したいし、実際協力できることは少なくないと思う。
 私が援助した学生の一人は、尊敬していた先生から「セクハラ」を受け、その「加害者」の影におびえて、大学に登校できなくなり、単位が取れないため留年も決まって、大学をやめようかと思っていた。悪夢にも悩まされたりして、死にたいと思ったこともあったという。
 この事例の報告に際しては、被害者自身や、「加害者」といわれている人のプライバシーを守るため、その特定化につながりそうな情報を伏せてある。その上で、被害者自身や関係学部長等にも読んでもらい、発表の了解を得ているが、この報告によって、被害者や「加害者」の人たちにマイナスの影響などが及ばぬよう、大切に取り扱っていただきたい。
 被害者の学生は、面接を重ね、たまっていたこわさや怒りなどを吐き出したりするにつれて、精神的にも落ち着いて元気になり、相手に謝罪を求めたりするなど、行動の自由も戻ってきた。やめることを考えていた大学も、復学の意欲が戻って、教室にも出てみたりし始めている。
 一般に、セクハラなどの被害者は、「あなた自身に(も)非があったのではないか」と責められたり、自責の念に駆られたりすることが少なくない。が、あなたが耐えられないような行き過ぎた行動の責任は、その行動をした人にある。話を聞いて、「あなたは悪くない」といってあげることが多い。
 セクハラなどの被害者は、事件の説明を求められるとき、思い出したくない恥ずかしいできごとを話させられて、かえって被害を深刻化してしまう場合がある。しかし、被害者の立ち直りを助けるためには、「事実」の詳細を確かめることを急ぐ必要がない場合もある。私たちは、「いま話したいことから話して、まだ話したくないことは話さなくてもよい」という姿勢で、相談に乗ることが多い。来談者が同性のカウンセラーを選ぶこともできる。
 このようなセクハラなどの相談が学生相談室に持ち込まれることは、まだ少ないが、以前と比べると、少しずつ増えてきた印象を持つ。
 ここ数年、カウンセラー仲間の援助報告などを読む機会も増えてきた。被害者が陥りやすい後遺症やそれに対する援助のコツや、「加害者」がかかえている問題点やその克服への援助方法について勉強する機会も増えてきた。そうこうしているうちに、実際に被害を受けた人の相談に乗る経験もした。逆に友達の一人が法に触れるような事件を起こして、相談に乗る経験もあった。
 現に進行中のトラブルにストップをかけるために、本人を支えて意思をはっきり表明させたり、私たちが相手との話し合いに介入することで解決が可能な場合もあるだろう。関係学部長や担当委員会などと相談して、対応を求めることが必要な場合もあるかも知れない。そのようなケースはまだ経験していないが、一定の役割は果たせると思う。
 また、再発防止のため、注意を促す情報を学内にフィードバックする役割も、果たしたいと思う。(この記事もその一つである。)学内でのセクハラ被害の情報は、大学にとっては不名誉なことであるし、それが元になって興味本位の噂や報道が広がり、被害者や「加害者」が余分の悪影響を被る恐れもある。しかし、再発防止のためには、抽象的な「指針」などよりも、実際の経験の方がはるかに有益である場合が多い。情報を可能な限り公開することは、被害を受けやすい弱者を守る上で欠くことができない、と私は思う。関係者の人権もしっかり守りながら、事実から得られる教訓は生かしたいものだと思う。その一方で私たちカウンセラーは、「加害者」の調査をしたり罰したりすることに関して、協力に限界がある場合もあるだろう。
 幸い、「広島大学ハラスメントの防止等に関する規程」が制定されて、そのための相談員や専門相談員や調査会などの仕組みも作られた。これらの組織ともタイアップしながら、問題解決に当たるケースも出てくるだろう。
 これまでの社会には、男性には多少のことは許されるし、女性は多少のことは我慢すべきだという考えがあったと思う。男性の一人である私も、過去に反省すべきことがなかったとはいえない。今でもそのような「男性優位」の感覚を持ち続けている人は、少なくないと思うが、このような社会は、協力し合って変えていかないといけないと思う。
 上述の事件は、私が聞いた限りでは、刑法などにふれるようなものではないが、学生が受けた被害はきわめて重大であったといわなければならない。ことの成り行き次第では、「加害者」は、教育者として致命的な打撃を受けることになったであろう。学問・教育の場で強い立場にある者は、十分注意しなければならないということを、この事件は警告していると思う。
広大フォーラム31期1号 目次に戻る