広島国際会議を終えて

文・ 藤 田 邦 子(Fujita, Kuniko)
 法学部教授 国際社会学会理事



 昨年十二月十九日・二十日の二日間、広島市の広島国際会議場において「世界秩序のなかの都市、国家、地域:二十一世紀に向けて」と題する国際シンポジウムを開催した。
 二日間の会議で目指されたゴールは、世界各国の都市がどの程度グローバル勢力下にあるかを比較・研究すること、彼らに日本の都市を見る機会を与えること、そして日本の都市研究者が彼らと研究・交流を深めることであった。
 会議の論点は、「グローバリゼイションが都市生活にもたらすインパクト」に絞られており、経済・政治・文化・住宅・少数民族・地域社会・市民社会などの多方面の観点から、六十八の論文が発表された。これらは主に次の三つの論争点にまとめることができるであろう。
 一、多国籍企業やグローバル金融からなるグローバル勢力は国家の役割を減少させているので、都市は直接グローバル勢力下にある。これまでナショナル・チャンピオンであった多国籍企業は、これからは都市と入れ替わり、企業家精神をもつ都市がナショナル・チャンピオンになる、と主張するもの。
 二、都市はグローバル経済・地域・国家という多層のレベルと共存し、都市の持つ地域主義はグローバル勢力と相容れるものである、と主張するもの。地域社会・市民社会での社会運動・住民運動が、グローバル勢力・地域・国家からの影響を緩和し、都市のもつローカリズムを保持するという。または、都市は地域性・国民性に根ざしており、そう簡単にグローバル勢力に飲み込まれるものではない、と主張するもの。
 三、グローバリゼイションの規定に異議を唱え、経済的・社会的・政治的・政策的・文化的といった多方面からの規定が必要である、と主張するもの。都市への影響は、そういった多方面から分析する必要があるという。
 参加していた広大法学部の学生たちからは、「国際シンポジウムなるものに初めて参加して、雰囲気に圧倒された。」という感想から、「複数の農家が共同経営する農業生産法人を作り、その地域全体をも活性化させながら農業規模の拡大や生産性の向上をめざすという考え方は、これからの日本の農業政策にとって有効だと思った。」という意見まで、さまざまな声が寄せられた。
 文部省、広島大学、国際交流基金(外務省外郭団体)、広島大学法学部後援会からの助成を得て、世界の二十二カ国から四十九名の都市研究者を招き、六十四名の日本の都市研究者に加えて、多数の一般市民や学生の参加もあり、盛会のうちに議論を深めることができた。
 また世界各国にまたがる参加者どうしの、会議当日までのレジュメのやりとり、意見交換などは、主に電子メールを通じて行い、都市研究者の電子メールによる研究ネットワークも形成された。今後の相互の研究に大いに役立つものと思う。
 会議で発表された論文の中から選択された十八の論文が、近くリチャード・ヒルとの共同編集によりThe Urban Nexus: City, State and Region in a Global Eraという題で出版される予定である。





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