21世紀にむけて 学部は(2)

  医学部総合薬学科は今   
〜大学院独立専攻新設と 創立30周年を迎えて〜


文・ 木 村 榮 一(Eiichi, Kimura)
医学部総合薬学科長



社会のニーズを見据えた総合薬学科

 私ども総合薬学科と大学院専攻群は、全国唯一の医学部内に存在する薬学教育研究組織である。昭和四十四年(一九六九年)四月本学科創立以来、この特徴を充分に活かして医学と密接に連携しながら、医薬品や生理活性物質の合成、発見、生体機能との関わり、体内挙動など基礎及び創薬研究において多くの世界的な業績を挙げてきた。 その輝かしい伝統を引き継ぎ、更に発展させ、学会及び社会に貢献すること、そして同時に将来を担う優秀な教育者、研究者および専門職能人の育成が、今後も本総合薬学科に課せられた社会的使命である。
 一方、時代のニーズに応えるべく、医療チームの一員として優秀で信頼される薬剤師の養成というもう一つの大きな社会的使命を全うするために、医療現場での必要知識・技術・倫理そして使命感を充分体得した人材の育成にも励んでいる。「基礎学問のしっかりした土台、情熱、研究心、創造性、探求心なくしては、いずれの方向へ進んでも社会のニーズに応えうる立派な職業人足り得ない」というのが、本学科創立以来の不変の教育信念である。このような信念に基づき、創立以来、薬学士、修士(薬学)及び博士(薬学)あわせて約二千人もの優秀な人材を社会に送り出して来た。
 現在、二十一世紀の薬学教育、研究及びその体制のあり方について、社会から厳しい関心と注目が集められている。私ども総合薬学科は、全国の薬学部に先駆けて大講座制を採用してきた。即ち、活性構造化学、薬品資源学、薬品分析化学、薬効解析科学、医療薬剤学、社会薬学の六大講座である。小講座の狭い専門分野にとらわれない学際的研究・教育が可能となり、時代の変化にもフレキシブルに対応してきた。
 このたび平成十一年四月から、大学院に新たに臨床薬学系独立専攻が設置され、薬物治療学、医薬情報科学、臨床薬剤学の三大講座が加わった。授業内容、研究内容の深化と拡大等、私どもに対する社会からの要請や期待は増える一方である。本総合薬学科及び大学院専攻群の教授陣は、この三十周年と大学院独立専攻新設を迎えるに当たり、全力を挙げて困難を乗り越え、大きく飛躍しようと覚悟を新たにしている。


学部教育〜理念と目標〜

 本総合薬学科は医学部内に存在する薬学教育研究組織であり、さらに同学部内に保健学科をも併せ持つという最適の環境にある。その特徴を最大限に活かし、我々総合薬学科は、学生諸君が将来、大学院進学、病院・薬局などの医療現場、保健衛生関連機関、製薬企業などの研究・学術関係等いずれの進路を選択しても、立派に社会に貢献できるよう、必要かつ充分な教科カリキュラムを組んでいる。本カリキュラムは、恐らく、我が国の薬学系学部中最もハードではあるが、充実したスケジュールであろう。その狙いとするところは、学部学生諸君の能力を一二○%引き出すべく徹底的に鍛えるところにある。そして、厳しく鍛えられた者のみが持つ充分な自信とともに本学を卒業させることを、私どもは約束している。薬学は、底辺の学問分野が広く、相互に関連し、かつそれぞれが奥行きの深い総合学問であり、その進歩は著しく早い。本学の卒業生は、本学において薬学の基礎知識や技術を十分に身に付け、かつ自分で考える訓練ができているので、卒業後如何なる分野に進んでも、自ら学習し、薬学知識や医薬情報をup-to-date化し、リーダーとして活躍することが出来よう。
 大学の授業は、高校までの授業とは全く異なる。無限に広く、深く、最新かつ未解明の学問の一部を教官は学生に紹介するにすぎない。そのような講義内容を出発点として、学生は自分で、教科書、参考書、学術雑誌などを調べ、あるいは教官と議論して自分の知識を拡大し、深めていかなければならない。すなわち、教官の言うことだけを知識として貯えることは、大学での勉強法ではない。大学における講義を良くするも悪くするも、学生の側にも大きな責任があることを充分自覚して欲しい。学生の知的欲求を充分満足させられない授業に対しては、遠慮無く教官に意見して良い。本学科全教官は、情熱をもって全力投球で諸君を教育し、鍛えることを約束する。我々教官は、教えることは学ぶことと実感している。学生諸君が知的欲求とガッツを遠慮無く教官にぶつけることにより、教官も学生と共に考え学び、お互いに成長したいと祈願しており、それこそが、これまでの、そしてこれから迎える二十一世紀の普遍的教育理念であると信じている。


大学院教育

 近年めざましい進歩を遂げてきた医学・薬学は、今後も益々深化と多様化の方向を取ることが予想され、高度の学識と技術を持ち、それらの専門性を新しい世紀に向けて深化させることのできる人材の育成がますます重要となっている。
 医療という面から見ると医学と薬学は、本来表裏一体となるべきものであり、それらの領域を越えた学際的な研究と、それに基盤をおく総合的医療の実践は、今日の社会が強く要請するところである。
 本医学系研究科では、従来の医学関係の諸専攻に薬学関係の分子薬学系、生命薬学系、そして新設の臨床薬学系の三専攻を加え、さらに保健学関係の保健学専攻を併せ持つ全国的に先鋭的かつユニークな教育研究体制を整備している。本薬学関係の三専攻は、学際的な最先端の薬学研究・教育を通して、幅広い視野をもつ高度の研究者、学術技術者、臨床薬剤師の育成を目指しており、それが社会に貢献できる道であると信じている。
[分子薬学系専攻(物質科学としての薬学)]では、医薬品、生体成分、天然生理活性物質を分子レベルで理解し、特に化学反応性や化学構造と生理活性との相関の薬学的研究、医薬品資源としての微生物酵素及び代謝産物の医薬品への応用や遺伝子工学的研究、薬用植物の生産、有効成分の調製、品質管理の化学的研究、医療及び生体・医療全般に関係した分析などが総合的に行われている。
[生命薬学系専攻(生命科学としての薬学)]では、医薬品と生体との相互作用を、生物化学、生理化学、薬理学など多面的な立場から総合的に解析している。また、臨床治療のための医薬品の動力学的研究、安定性・有効性の評価、有害物質や食品環境などの衛生化学的諸問題に関する研究が行われている。
[臨床薬学系独立専攻(人間科学としての薬学)]では、医療の高度化及びそれを巡る薬物治療の高度化・複雑化に対応するため、化学、生化学等の基礎を充分に積んだ薬学系学部卒業者を対象に、臨床の場で役立つ教育研究を進め、幅広く高度な専門知識を身に付け、臨床現場で医療チームの一員として活躍できる臨床薬剤師、保健医療機関・製薬企業等の研究者、教育者、指導者及び管理者の育成を目指している。


むすびにかえて〜二十一世紀への展望〜

 本総合薬学科及び大学院専攻群の目標は、優秀な教授陣と優秀な学生が、教育研究を通じて互いに切磋琢磨しながら、世界をリードする基礎・創薬・臨床薬学研究成果を挙げることにある。それにともない「卓抜した研究拠点(COE: Center of Excellence)」として機能する学科・大学院専攻群にしたいと思う。
 総合薬学科の創立三十周年と臨床薬学系独立専攻の新設を記念して、この春に学科紹介パンフレット『分子・生命・臨床〜薬学への招待〜』を作成した。学科の歴史、理念、学部・大学院の教育の魅力、興味深い各研究室の研究内容、学生の進路などが、四十五ページにわたって分かりやすく紹介されている。また、総合薬学科のホームページ(URL:http://www.pharm.hiroshima-u.ac.jp)も公開中なので、興味をお持ちの皆さんは是非ご覧下さい。
 我が総合薬学科では、心が若くてやる気のある情熱に満ちた学生のアクティブな参加を待っています。共に21世紀を切り開こうではありませんか。
 謝辞:この場をおかりして、臨床薬学系独立専攻設置に際して、多大なるご尽力を頂いた方々に感謝いたします。

総合薬学科校舎

大学院医学系研究科臨床薬学系独立専攻第1期生入学式

大学院医学系研究科臨床薬学系独立専攻新設及び総合薬学科創立三十周年記念講演会

 




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