五十年史編集室だより(6) 


 広島大学の公文書と五十年史編纂 
五十年史編集専門委員(総合科学部) 小 池 聖 一

 情報公開法が制定され、広島大学の公文書も対象となります。入試情報を含め公開範囲をどこまでにするのか、また、公開に備え文書と公開機関の整備をどうするのかが問題となることでしょう。同様に、広島大学五十年史編纂でも広島大学の公文書は、正確な叙述をなすうえで必要不可欠なものです。ここでは、広島大学事務局が所有している公文書の形態上の特徴について概略紹介したいと思います。

資料の生成過程にみる事務局関係資料 

(一)事務局所管記録
 事務局資料は、各年度毎に担当課および係で担当官によって「行事」「調査」等に分類されて綴られます。しかし、現用記録(実際に執務に使用されている記録)としての期限年数三年を越えたものの多くは、基本的に廃棄処分されます。特に、移転に当たっては、多くの資料が廃棄されたと思われます。そして、事務局本部における政策立案・決定過程を知りうる資料は、事務局長・総務部長および総務課長・企画室長等の手許文書・現用記録として引き継がれています。
 結果的に統合移転前、昭和二十・三十年代の資料は全体的に手薄となっています。大学史を叙述する場合、森戸辰男関係文書(森戸文書研究会が整理中)に代表される旧学長所蔵資料を含めた、大学の意思決定の実態を知りうる資料の発掘が必要です。

(二)各種委員会等記録
 本学内の政策決定過程は、全学的問題に対して(図-1)のように行われています。その際、各委員会関係に関する事務局本部の対応は受動的であり、議決内容等の保存を中心に記録が形成されています。このため、経過に関する記録・起案文書等は、上記の事務局所管記録とともに統合移転に際して多くが廃棄されたものと考えられます。
 反面、移転以後は、事務局が、計画立案から決定過程の資料を有していることになります(本来は、もっと複雑な決定過程を有しています)。この過程で大学の政策決定過程に最も影響を与える文部省との交渉関係の資料については、事務局長・総務部長・総務課長・企画室長等が執務参考として自らの手許に保管されています。
 事務局以外の他部局が起案元である場合には、一次資料を所蔵している可能性もあり、あわせての調査も欠かせません。また、過去に政策立案を担当した事務官および当該期の事務局長・課長の方々が個人的に資料を保有していることもあり、調査をこれまで以上に行う必要性があるでしょう。

(三)統合移転関係資料
 前記二者に対して、西条キャンパスへの統合移転関係資料については、一括した記録が保管されています。具体的に資料の生成過程をみるならば(図-2)のようなものです。
 統合移転については、政策要請から政策執行過程に至る全過程を企画調査課が把握しており、文部省との交渉・報告書類も基本的に揃っています。また、執行過程関係の資料については、他部局にも所蔵されており、広島市・東広島市・広島県等の記録・文書との照合作業が進展すれば、広島大学五十年史の編纂もこの部分については充実した内容になるものと期待できます。
 なお、大学教育研究センター所蔵の将来構想関係資料もあわせて当該資料は、一括して大学史編集室に移管されています。
 事務局は統合移転以後の公文書をほぼ完全な形で保管している反面、昭和四十七年以前の記録・文書等の多くを喪失しています。このため、広島大学五十年史の編纂作業にあたっては、局長等手許文書(現用記録)の調査および個人所蔵文書の発掘が不可欠です。
 同時に、情報公開法の施行にあたり、広島大学でも明確な対応が必要となるでしょう。公開準備として公文書の全体状況の把握と中央での一元的統制、これにともなう整理・公開機関(具体的には公文書館(文書室)、地域開放型での設立が可能だと思います)の設立が急務といえます。その意味でも、資料の整理能力を有する大学史編集室および広島大学五十年史編纂事業が果たしうる範囲は大きいと考えています。
(平成十一年五月二十八日)




 五十年史編集室のご紹介 
 五十年史編集室は平成十年二月に中央図書館地下一階に設けられました。中央図書館側面の職員通用口から入って右手の突き当たりに位置しています。この場所に、編集室員三名が勤務しています。今年の三月に前任助手の三澤純氏が熊本大学に転出したため、四月より小宮山道夫(助手)、菅真城(教務補佐員)、柏村亜紀(事務補佐員)の体制となりました。
 編集室はその名のとおり『広島大学五十年史』の編集が主たる業務で、現在は今年十一月の五十周年記念事業にあわせて刊行予定の図説年表の編集に重きを置いています。その他の業務として、研究会の開催、『広島大学史紀要』の刊行、そして広報活動にあたる、この「編集室だより」の編集やホームページの運営などを行っています。
 研究会は年史編纂と広島大学の歴史について知識を深める目的で開催しています。これまで六回を数えました。なかでも森戸辰男初代学長の元秘書という立場から広島大学創設期について語られた西村博氏(元政経学部講師)の講演は、広島大学の歴史をひもとく重要な証言となりました。
 『広島大学史紀要』は、編集室業務の成果を公表する意味で刊行しています。第一号には講演、論文、資料の三種七本を掲載しました。森戸辰男初代学長に関係した原稿が四本あり、さながら森戸辰男特集号となりました。前述の西村氏の講演もここに掲載しています。
 ところで、編集室の最も重要な業務は資料の収集です。大学の公文書は政策決定過程を解明する基幹資料であり、これを把握することは急務です。その一方で、本学の関係者が私蔵する資料の収集もまた、大学の日常を明らかにするための重要な作業です。このためには、旧教職員や卒業生修了生の皆さんはもとより、現職の教職員や学生の皆さんのご協力が不可欠です。どの様な些細に思われる情報でも、当編集室にお寄せください。
 今後とも当編集室をどうぞよろしくお願いします。

平成11年3月に刊行した編集室の紀要『広島大学史紀要』第1号。年1号刊行の予定

左から管、小宮山、柏村。編集室にて撮影。後方の書幅は森戸辰男初代学長の手によるもの(西村博氏提供)。『論語』(為政編)の一節。
 
50年史編集室ホームページ http://www.ipc.hiroshima-u.ac.jp/~nenshi50/

業務日誌抄録

2・22〜26 東京出張(三澤・小宮山)。◇国立教育研究所◇国立国会図書館
2・25 平成十一年度前期入試会場の写真撮影(契約カメラマン)。
3・1 第八回編集会議。
3・6 大濱徹也氏(筑波大学第二学群長)来室。
3・9 平成十一年度前期入試合格発表の写真撮影(契約カメラマン)。
3・12 第九回編集会議。
 第五回研究会
 報告…沖原豊名誉教授(就実女子大学・短期大学学長、元広島大学長)
 「広島大学四十一年の日々」
3・19 第十回編集会議。
3・24 第十回幹事会。
3・25 広島大学学位記授与式および桜植樹式の写真撮影(契約カメラマン及び小宮山)。
3・29 第十一回編集会議。
 鳴海元名誉教授(理学部)来室。鳴海氏より写真借用。
3・31 三澤室員、熊本大学に転任。
4・1 小宮山室員(文学部助手)着任。菅真城室員(教務補佐員)着任。
4・7 学内刊行物の寄贈依頼文書を関連部局等に発送。
4・8 平成十一年度入学式の写真撮影(契約カメラマン)。
4・12 今井見英氏(尚志会員)より資料受贈。
4・16 第十二回編集会議。
4・20 岡本和夫名誉教授(学校教育学部)より資料受贈。
4・23 第十三回編集会議。
 寺林甲子郎氏(尚志会員)より資料受贈。
4・28 二専攻合同入学式(医学系研究科臨床薬学専攻・生物圏科学研究科環境循環制御学専攻)を取材し、写真撮影(菅)。
5・7 生物圏科学研究科環境循環系制御学専攻設立記念祝賀会を取材し、写真撮影(小宮山)。
5・12 第十一回幹事会。第十四回編集会議。
5・28 奈良出張(小宮山・菅)◇全国大学史資料協議会西日本部会。
6・2 第十五回編集会議。
6・3 「広島大学後援会」記念碑設立除幕式を取材し、写真撮影(小宮山・菅)。
6・4 大段徳市氏より写真資料を借用。歯学部附属病院主催大母親教室を取材し、写真撮影(小宮山・菅)。
6・8 キャンパス内にある山中谷川水田の田植えを取材し、写真撮影(菅)。
6・11 第十六回編集会議。
6・16 第三回編集専門委員会。



〈連絡先〉50年史編集室 電話 0824(24)6050 FAX 0824(24)6049
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