自著を語る
『大統領の挫折―カーター政権の在韓米軍撤退政策』
著者/村田晃嗣
(A5判,320ページ)
3,400円(本体)
1998年/有斐閣
本書は筆者が神戸大学に提出した博士論文を加筆・修正したものであり、一九九一〜九五年に米国ジョージ・ワシントン大学に留学した時期の調査に基づいている。
一九七六年にカーターは在韓米軍の撤退を公約に掲げて米国の大統領選挙に当選した。なぜ在韓米軍の撤退なのか。米国は朝鮮戦争以来、韓国と同盟を結び、そこに米軍を駐留させてきた。しかし、これには膨大なコストがかかる上に、いつ朝鮮半島でまた紛争に巻き込まれるかもしれない。おまけに、米国が庇護している韓国はいまや経済成長の著しい一方、国内では非民主主義的な強権体制が続いていた。「こんな国をなぜいつまでも米国が守ってやらねばならないのか」――これはベトナム戦争後の素朴な感情であろう。だが、米軍の撤退は朝鮮半島情勢を不必要に緊迫化させるかもしれない。在韓米軍の撤退が日本に与える影響も重大である。絶大な権力を有する米国大統領も、軍部や官僚機構、議会の抵抗の前に、ついには自らの選挙公約を断念せざるをえなくなる。
これはなにも二十年前の昔話ではない。依然として緊迫した朝鮮半島情勢や「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)をめぐる最近の議論をみても、そのことは明らかであろう。朝鮮半島の安全保障を考えることなしに、日本の安全保障を考えることはできないのである。「巻き込まれるのはご免だ」、「日本さえ平和ならいい」では、国際社会に通用すまい。
学生諸君にはやや難しい本かもしれないが、今日的関心をもって手にしていただければ幸いである。七月には二冊目の著書『米国初代国防長官フォレスタル─冷戦の闘士はなぜ自殺したのか』(中公新書)がでる予定。あわせてご覧いただきたい。
なお、本書で一九九八年度アメリカ学会清水博賞を受賞した。
プロフィール
(むらた・こうじ)
☆一九六四年生まれ
☆同志社大学法学部卒業。
☆米国ジョージ・ワシントン大学留学を経て、
神戸大学大学院法学研究科博士課程修了。
☆一九九六年読売論壇新人賞・優秀賞受賞。
☆現在、広島大学総合科学部助教授。博士(政治学)。
☆専攻は国際関係論、特にアメリカ外交、安全保障研究。
広大フォーラム31期2号
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