自著を語る

『はじめて学ぶ大学の無機化学』
著者/三吉克彦
(B5判,170ページ)
2,200円(本体)
1998年/化学同人
 



─化学はこんな勉強をする学問だったのか─
 ある科目に興味があることとその成績がよいこととは必ずしも一致しないが、高校時代に化学がそこそこ得意科目だったから化学を専攻しようと思った学生は少なくないはずである。ところがそのような学生が大学での化学の講義について行けないケースが最近目立つようになっている。教育者の端くれとしては、学生が勉強しないからだ、と割り切るわけにはいかない。
 学習を食事に例えると、高校までの学習内容はそのまま噛まずに飲み込んでも栄養になるようにうまく調理されている。ところが大学でこれをやるとたちまち下痢をする。おまけに受験勉強で飲み込むくせがついていればそれだけ大学で要求される食事法を会得しにくい。矛盾していると叱られるかも知れないが大学の化学は高校の化学の延長線上にはないのである。

─やさしい教科書とはどんなもの?─
 最近国内外で「基礎・・」や「入門・・」と銘打った教科書が数多く出版されている。世界的な落ちこぼれ現象に対応するためである。
 本書は、初学者の胃にもやさしい化学を提供することを目指して、本学理学部化学科の教官が執筆した三部作のうちの無機化学編である。基本姿勢は三冊とも同じであるが、方法論は各分野の特異性に応じてそれぞれ特徴がある。
 この無機化学編に関しては、各論を最小限に止め、重要な事項に絞って詳しく丁寧に解説することに主眼を置いた。これまでの「やさしい教科書」に比べれば、本書は高度な内容も含んでいて「はじめて学ぶ」に相応しくないとの批判もあるが、表面的な説明で満足して欲しくないからである。自らよく噛んで食べれば消化機能が少々劣る学生にもおいしくて充分栄養になるよう配慮したつもりである。化学を専門とする理・工および教育系の学生に特に推奨する。


プロフィール        
(みよし・かつひこ)
☆一九四五年 広島県生まれ
☆一九七三年 広島大学大学院理学研究科化学専攻修了(理学博士)
☆一九七五〜七六年 英国ロンドン大学博士研究員
☆一九八九年 広島大学理学部教授
☆所属 広島大学大学院理学研究科分子構造化学講座
☆専門 錯体化学




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