自著を語る

『はじめて学ぶ大学の有機化学』
著者/深澤義正・笛吹修治
(B5判,174ページ)
2,200円(本体)
1997年/化学同人
 



 大学が「レジャーランド」などとやゆされてから久しい。そのうえ最近では特に新入生の基礎学力がここ数年低下する傾向にあるとの意見をたびたび耳にする。
 実際、昨年に大学入試センターが全国の国立大学の学部長に対して実施した調査によると、ここ数年の新入生の学力について「低下している」と「やや低下している」を合わせると五〇%を超すそうである。本学にはそれが当てはまらないことを望むが、実際に講義してみて残念ながら本学だけが例外という訳にはいかないようである。
 同じ調査によると、学力の低下の理由として最も多いのは「受験学習に偏り、問題解法は知っていても概念理解に欠ける」があげられている。旺盛な記憶力にまかせて暗記して済ませてしまい、現象が「なぜ起こるのか」についてまで理解するゆとりが十分でないのかも知れない。たしかに、高校の化学の教科書がカバーしている領域はかなり広い。とくに有機化学の分野はその傾向が顕著である。しかし、大学で学習する有機化学は更に広く、かつ深くなる。これをすべて記憶力で解決できる筈が無い。
 本書は、できるだけ多くの学生諸君に「有機化学は暗記にたよる学問ではなくよく系統化されており、いくつかの基本的な原理を順を追って学習していけば非常に理解しやすい学問である」ことをできるだけ早い時期に気づいてもらい、余裕をもって有機化学の面白さを味わうことができるようになってほしいと願って書いたものである。特に、入門書ではあまり扱われていない有機化合物の合成法についても「ほしいものをつくるために」の章を設けて触れ、逆合成の考え方やシントンや合成等価体などの概念に早いうちから慣れてもらい十分に理解できるように工夫した。


プロフィール        
(ふかざわ・よしまさ)
☆一九四四年 東京都生まれ
☆一九七一年 東北大学理学研究科博士課程化学専攻修了
☆一九七二年 アルバータ大学博士研究員
☆一九七四年 東北大学理学部
☆一九八三年 広島大学理学部
☆所属 広島大学理学研究科
☆専門 有機化学




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