フォトエッセイ(46) キャンパスの生物

文・写真 小 阪 敏 和(Kosaka, Toshikazu)
理学部 原生生物学講座
           


 ミドリゾウリムシ 
Paramecium bursaria
 

接合対(緑×白)

細胞表面の模様

ミドリゾウリムシとクロレラ(緑)

分裂異常体

正常株(緑)とクロレラ除去株(白)間の交配反応

大核と小核
  
 ミドリゾウリムシという名の生き物がいる。キャンパスの真ん中に位置するぶどう池にもたくさん生息している。もしもあなたがぶどう池の水面に顔を近づけて水中をじっと見つめたとしてもその姿を見ることはできない。一ミリの十分の一ぐらいの小さな顕微鏡的生き物だからである。
 ゾウリムシはアメーバやミドリムシなどと共に単細胞の原生動物の中では最も知名度が高い。繊毛虫ゾウリムシの仲間のミドリゾウリムシはその色の緑に因むが、その緑は細胞内に共生する数百にも及ぶ藻類(クロレラの仲間)による。ミドリゾウリムシもクロレラも単細胞生物であるが、宿主と共生者の大きさにかくも違いがあるものかと驚かされる。
 今から約百年ほど前、はたして原生動物には寿命があるのかということが大論争になった。アメリカの学者がゾウリムシを新鮮な培養液に移し換え続けて、最終的には死ぬということを証明し、論争に終止符が打たれた。ただし原生動物の寿命の長さは、年数で測る我々の寿命とは違って、細胞の分裂回数で測られる。寿命があるということは、とりもなおさずゾウリムシに若者も老人もいるということを意味する。つまり我々人類の一生でみられる現象に対応するものがあり、有性生殖(接合)の後に未熟期、青春期、成熟期、老衰期がみられる。老化した株ではしばしば培養中に分裂異常体が出現する。ミドリゾウリムシも我々も、単細胞と多細胞生物の差こそあれ、生物の根本原理である誕生から死までは同様な過程を経るのである。
 さて、大学キャンパス付近の池に棲むミドリゾウリムシの集団中には老若が共存している。鏡山公園内の奥田大池で約三千個体を調べたところ、なんと九割以上が高齢であった。おそらく、共生藻が年老いたミドリゾウリムシに光合成で生産された栄養分を補給し続けているのであろう。共生者はあくまで宿主にやさしいのである。両者はとても良い関係を築いているようだ。


   

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