『心肺機能補助装置』
─医学部置換医学実験施設における発明から─
医学部外科学第一講座 末 田 泰二郎  



1.はじめに

 医学研究の多くは分子生物学や遺伝学などの生物学的な研究が行なわれていますが、医学部の置換医学実験施設と外科学第一講座においては従来から人工心臓、人工肺の発明、開発という工学的な研究を行ってきました。
 現在は広島国際大学の臨床工学科教授として転出された工学部出身の福永信太郎先生を中心に、独自の人工心臓や人工肺を考案してきました。その一部は特許を申請し、現在までに四件の発明が特許原簿に記載されており、一件が出願中です。いずれも独自の人工心臓や人工心肺装置に関する特許で、手作りの機器を試作して、成犬や羊を使った動物実験にてその性能の検討を行ってきました。
 将来実用化される可能性の高いアイデアの循環補助装置に関する特許もあり、国内の医療機器メーカーと実用化に向けて検討中のものもあります。以下に最近、国内および国外(米国、ヨーロッパ)で特許登録されました広大発の『心肺機能補助装置』について紹介します。特許原簿からその内容を簡略に抜粋しました。

2.発明の名称『心肺機能補助装置』

a 特許番号:第二六五六四一八号
b 登録日:平成九年五月二十三日
c 特許権者:広島大学長
d 発明者:福永信太郎、末田泰二郎、松浦雄一郎
e 発明の説明:本発明は、大動脈や大静脈などの血管内に挿入されて、心臓の拍動に類似したポンプ機能の一部を果たすと同時に酸素を血液に付加して肺機能の一部も代行する心肺機能補助装置である。
f 従来の技術と発明が解決しようとする課題:心臓手術後の一過性心不全あるいは心原性ショックなどの際には、大動脈内バルーンポンプが用いられている。大動脈内バルーンポンプは心臓の後負荷を減少し、心筋酸素消費量を減少させると同時に、冠状動脈血流量を増加させて、心臓の機能回復には有用である。
 しかし、心機能の低下した患者はしばしば肺のガス交換能も減少しており、人工呼吸器や人工肺装置が必要となる。特に重症の心肺機能不全患者には人工心肺装置の装着が必要となる。人工心肺装置は心肺機能を代行できるが、装置が大がかりで、血液の凝固を抑制する抗凝血剤を必要とし、かつ長時間の使用が困難である等の問題がある。従来の大動脈内バルーンポンプにおいては心機能の一部のみを代行した。
 本発明は、心臓のポンプ機能の一部を補助するとともに血液に酸素を付加し、また大動脈や大静脈などの血管内に留置させても血液の抵抗が少なく、かつ拍動性に動くために血栓が生じ難い、簡単で操作性の良い心肺機能補助装置を提供することである。
g 本発明の特徴: 本心肺機能補助装置は駆動装置から拍出した圧搾酸素を気体流入管により複数のバルーン内に周期的送り込み、バルーンの拡張と収縮を繰り返し行う。バルーンは酸素の溶出の可能なシリコーンゴムまたはポリウレタンで作製し、バルーンの拡張で酸素は溶出し、血液に新鮮な酸素を付加する。バルーンの収縮は気体流出管によりバルーン内の気体を吸引することで行う。バルーンの周期的な収縮、拡張により、周囲の血液の排除、充満を繰り返して行い、心臓の拍動に類似したポンプ機能を発揮する(図1)。

3.本発明の今後と工学部の先生方へお願い

 試作機による動物実験では、酸素交換能が充分でなく、酸素が高粘度気体のためにバルーンの収縮が遅れるなどの問題がありましたが、将来実用化できる可能性はあります。今後も、工学部の先生方のお智恵を拝借して、独創性と実用性のある医療機器を発明していきたいと思います。ご意見をなんなりとお寄せください。
プロフィール        
(すえだ・たいじろう)
☆一九五三年 広島県呉市生まれ
☆一九七八年 広島大学医学部卒業
☆一九七八年 広島大学医学部第一外科入局
☆一九九三年 広島大学医学部講師
☆一九九五年 広島大学医学部助教授
☆専攻=心臓血管外科学、循環器学、人工臓器学
☆著書=『最新胸部外科手術』(杏林舎)
    『循環器研修医ノート』(診断と治療社)




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