自著を語る

『確率モデル入門』
著者/尾崎俊治
(A5判183ページ)
2,800円(本体)
1996年/朝倉書店
 



確率の歴史
 本書は私の研究テーマであるオペレーションズ・リサーチ、システム工学に応用するための確率・確率過程の理論を教科書として上梓しました。学部では少々難しく、大学院では少し易しい本となり、大変中途半端になりました。
 工学部では「確率・統計」としてひとまとめにした理論として講義されることが多いですが、学問としてはあくまで「確率論」と「統計学」であり、事実広島大学理学部の数学教室では「確率論」と「統計学」の研究室は別々になっています。しかし、工学部に所属する我々は確率論と統計学の橋渡しをして、自然科学はもちろんのこと社会科学のいろいろな問題にも「確率・統計」を応用しています。
 確率の歴史は十七世紀のフランスのパスカル、フェルマーを始めとする哲学者、数学者、物理学者が「かけ」の組合せから確率を計算したことに始まります。そして、今世紀になってロシアのコルモゴロフ、日本の伊藤清先生(京大名誉教授)らが数学的に厳密な確率論を体系化して、今日に至っています。自然科学・工学では確率論はいろいろな問題に応用され、多くの成果を得ました。


確率の応用
 一方、社会科学においても「確率・統計」はいろいろ応用されています。計量経済学、計量社会学などは英語で Econometrics, Sociometrics となり、]metrics は正に「計量」に対応する言葉で、「確率・統計」を経済学、社会学などで応用する学問です。
 一九八九年のベルリンの壁の崩壊以後、世界の潮流は市場経済の優位を確定しました。資本主義経済は金融市場で資金調達をする株式市場、債権市場、外国為替市場の乱高下の下で国家の帰趨を決める時代になりました。これらの金融市場で生き抜くための金融工学を駆使して、資金運用することが先進国の課題になっています。この金融工学の成果は確率過程論を基礎として確立されたもので、ショールズ(M. Sholes)、マートン(R. Merton)は一九九七年ノーベル経済学賞を受賞しました。確率論も陽が当たるようになりました。


プロフィール        
(おさき・しゅんじ)
☆昭和十七年
 愛知県西尾市生まれ
☆昭和四十五年
 京都大学大学院
 工学研究科博士課程修了
☆工学部教授
☆専門=オペレーションズ・リサーチ、システム工学、応用確率論




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