経済学部附属地域経済システム研究センター発足 

戸 田 常 一(Toda,Tsunekazu)
  地域経済システム研究センター長

 地域経済システム研究センター(Center for Research on Regional Economic Systems,略称CRES) は、十年前に文部省令により経済学部附属の研究施設として設置された地域経済研究センターが改組されて、平成十一年四月に新たにスタートした研究機関です。このセンターでは、地方分権型社会の到来をみすえた個々の地域の自立的な発展のための地域経済研究を進めるとともに、地域間の連携・協力のもとで環瀬戸内経済文化圏を形成することに関連した総合的な研究を行うことを目的としています。
 研究施設は、主要な行政機関や企業への近接性を考えて、これらが集積する本学東千田キャンパス(広島市内)に配置されています。
 
 
1 設立の目的と基本方針

 地域企業のグローバル的展開のもとで地域産業の空洞化と雇用不安の拡大が進行し、新たな産業育成が強く求められています。また、これまでの過度な地域開発は自然・生物環境に対して大きな歪みをもたらし、さらに高齢化社会の到来と地方財政の逼迫のもとで、地域の持続的発展には大きな危機感が抱かれています。
 このような状況下において、十年間の活動を終えた地域経済研究センターは新たに地域経済システム研究センターとして改組されました。そして、新たなセンターでは、「グローバルな視野のもとで自立的な地域経済システムのあり方を研究すること」を緊急の課題と考え、次の基本方針のもとで研究を進めることとしています。
   基本方針:グローバル時代における地域経済の持続的発展をめざして


2 活動内容と研究課題

 活動内容と研究課題は次のようにまとめることができます(右下図参照)。
(1) 活動内容
○ グローバル時代における地域経済の持続的発展策の研究
○ 高度な地域経済研究と産・官との共同研究(高度な実践的地域経済研究の推進と共同研究プロジェクトの企画・実行による産・官との連携・協力)
○ 研究成果の社会への還元(産官学の連携事業の推進と、大学院での社会人指導による研究成果の普及)
○ 地域経済情報の整備と受発信(インターネットのホームページの充実・活用とそれによる研究成果の公開)
(2) 研究課題
A 地方分権型社会における自立的地域経済システムの構築:地域のグローバル化への対応が遅れ、全国的にも先行した人口減少・高齢化状況を迎えている環瀬戸内圏の諸地域を対象として、地方分権型社会における地域の自立的発展支援のための政策研究を行う。
[研究プロジェクトの例]
1.地域企業のグローバル的展開による影響分析と地域発展策の検討
2.人口減少・高齢化のもとでの地方行財政の変化と政策課題の検討
3.地域の魅力、自然の価値等の「質的」環境要素の定量化とその活用
B 地域間の連携・協力と環瀬戸内経済文化圏の形成(次項上図参照):本四三橋時代を迎える西日本においては大きな地域経済の構造変化が予想される。高速交通の時代においては、瀬戸内海を囲んで西日本を一体と捉えることが行政投資や企業行動の面でも効率的かつ合理的であり、関西圏と九州圏を結節する環瀬戸内経済文化圏の形成を地域間の連携・協力のもとで実現してゆくことが求められる。
 この点は、美しい多島景観や自然に恵まれる世界閉鎖性海域としての瀬戸内海の環境保全・創造と利活用のための総合共同管理(ガバナンス)を推進してゆくためにも重要である。そのためにはこのような環瀬戸内経済文化圏がもつ諸課題をトータルに捉えた政策研究が不可欠である。
[研究プロジェクトの例]
1.本四三橋開通による地域の経済構造変化と政策課題の検討
2.地域産業の将来像と育成支援策の検討
3.瀬戸内海の将来像の検討と地域環境の「総合共同管理(ガバナンス)」への貢献
4.生活、産業、文化等諸機能の効率的な 地域配置と共同整備・利用の検討
 これらの研究課題は、環瀬戸内経済文化圏をモデル地域としてグローバル時代における地域経済の持続的発展のための地域経済システムのあり方を研究するものと言えます。
 また、これらの研究課題は激変する経済社会情勢のもとで今後の地域発展を模索している地域の要請にもかなっており、併せて研究成果の社会への還元により、地方自治体等における政策立案にも貢献できるものと考えられます。


3 産・官との連携・協力


 これらの課題を研究するためには、高度な地域経済研究を自ら推進することがもっとも重要ですが、併せて、現実の地域経済動向を踏まえた実践的な研究を進めるために、産・官との共同研究の企画・実行が求められます。具体的には、研究テーマに合わせて、大学研究者を中心としつつ、民間シンクタンクにおける第一線の人材に客員研究員を委嘱して共同研究プロジェクトを実施する準備を進めています。このため、地域経済システム研究センターでは、産・官・学の共同研究の企画や研究組織編成、さらには研究プロジェクト全体の指導・運営を行うこととなります。
 また、本センターのネットワークを下図に示しますが、過去十年間の地域経済研究センターでは、図中の地域経済研究推進協議会(地方行政・経済団体や企業・民間シンクタンクから構成される会員組織)との連携・協力のもとで様々な研究・事業活動を行ってきましたが、今後もこのネットワークのさらなる充実を期しています。
 最後になりますが、本センターが様々な行政・経済機関が集積する広島市内に立地していることからも、今後とも広島大学の地域社会への貢献のために一定の役割を果して行く所存ですが、経済学部はもとより全学からの御支援についてもこの紙面を借りてお願い申し上げます。
 
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