困った大学教員にならないために 

─アカデミック・キャリア・ゼミの創設─
今 井 重 孝
大学教育研究センター教授
 
一、はじめに

 近年、大学の大衆化と十八歳人口の減少に伴いとりわけ日本の大学においては、ますます教員の教育的資質が要求されることになるといわれています。既に、大学によってはファカルティー・ディヴェロプメント(FD)を行い、教員の資質向上に努め始めています。本来から言えば、将来大学教員になる大学院生にプレFDを必修にすることが緊急に要請されているといえるでしょう。
 こうした事態の中で、広島大学大学教育研究センターでは、日本最初の高等教育研究センターにふさわしく他大学に先駆けて、一九九九年度前期よりプレFDの試みとして、アカデミック・キャリア・ゼミをスタートさせました。


二、アカデミック・キャリア・ゼミの内容

 内容については、センターの大学院生や運営委員の先生方のご意見を伺いながら、ひとまず表のような形でやってみることに落ち着きました。
 全体は、大きく、大学教員になるために知っておくべき事柄群を扱う前半と、大学教員になった時に使えそうなハウツーを扱う後半に分かれています。後半では、優れた授業を見てみようということで、総合科学部の古東先生の哲学の授業と理学部の草野先生の電磁気学の授業を見学させていただきました。学生にとても好評でした。
ありがとうございました。


三、ゼミの参加者

 広報活動としては、センターの運営委員の先生方に各部局にご連絡いただくとともに、運営委員の久保先生(理学部)のご提案に倣い、「困った大学教員にならないために」というコピーで宣伝用のビラを作り、掲示しました。
 参加者は総勢二十六人、平均毎回十人以上の出席という数字は、初めてにしては上出来というべきでしょうか。参加者も文学研究科、教育学研究科、社会科学研究科、生物圏科学研究科、理学研究科と多方面にわたり、異なる専門の院生の交流の場としても貴重な場となりました。最後は、学生の希望でコンパを開催するほどの雰囲気のよさでした。


四、参加者の感想

 このゼミの内容をおわかりいただくために、参加者の正直な感想をご紹介しましょう。
 「ゼミに参加して、研究室にいるだけでは得られない知識、考え方に接することができ、全体的によかったという感想を持ちました。」
 「アカデミック・キャリア・ゼミの試みは大変よかったと思う。
 なにより大きかったのは、先生方のお話を伺う中で、自分のキャリアや将来直面するであろう問題について、自分なりに現実の問題として考えたり、確認したりする機会を持つことができた点である。」
 「日本の大学に五年余り留学している中国人の私にとって、『アカデミック・キャリア・ゼミ』は中国と日本の大学を比較する上でも貴重な財産となった。」
 「全体的なゼミの内容は、これまで大学教育研究をされてきた先生方の講義で、大変勉強になりました。」
 「本ゼミを受講して、大学教員が置かれている状況、また今後置かれるであろう状況を感じ取ることができた。」
 「全体を通しての感想であるが、良かった点としては、なんと言ってもこのようなゼミが開講されたことであろう。研究科、学生をこえてのこのようなゼミは他大学でもおそらく少ないであろうし、広大のような研究科、研究室がタコツボ状況にある大学では、このようなゼミは非常に有効であると思う。」
 「このたび、アカデミック・キャリア・ゼミを履修し、大学の授業について、いくつか気づいた点、参考になった点、自分の経験上思い出したことなどがありました。
 今大学教員に対してどんな資質、要素が要求されているのかが、見えてくるような気がしました。」
 「様々な刺激を受けた後、もう一度アカデミック・キャリア・ゼミを受講したい。」
 ゼミは、授業参観を除いて、すべてビデオにとってあるので、興味のある方はセンターの南部助手に申し出て下さい。
 来年度も、以下のような参加者の希望を考慮し、改善を図った上で開講する予定ですので、是非多数の院生の参加を期待しています。


五、参加者からの要望

 「国立大学の独立法人化、任期制の問題を取り上げて欲しかった。」
 「私立大学についての話が聞きたかった。」
 「助手、講師、助教授の先生方のお話も聞きたかった。」
 「各先生の専門分野の講義としての側面が強すぎたのではないであろうか。もっと、われわれが将来直面する現実的・具体的問題について独自の考え方を聞きたかった。」
 「学生が感じる『困った教員像』を議論してみるのも面白いのでは。」
 「前週に、次回の授業でどういう知識を共有しておく必要があるのか提示していただきたいと感じた。」
 「今回の担当者は、四十代後半の教授クラスの男性に偏っていたと思う。女性や外国籍の方からも人選して欲しい。また三十代の助手・講師クラスの担当者がいたら、よかった。」
 「院生のTAを置いたらいいのではないか。」
 「ゼミ時間後もゼミの場を開放して、お茶とお菓子でも用意して、残れる人は残って続きの話をできるような場を作る。その運営はTAが行う。」
 「他の私立大学あるいはまた短期大学の授業を見学してみたい。見学が無理なら、他大学の授業風景をビデオなどに撮影しておいて、それを見てみんなで感想を述べ合う。いくつかの近隣の大学にそれぞれ単独で見学しに行きレポート、レジュメにまとめ、毎回の授業時間ごとに交代で発表するのもいいのではないか。」
 「授業参観をした後、先生を囲んでの検討会(ディスカッション)を是非やって欲しい。」
 将来は、「アカ・キャリ」(学生の使う短縮語)を受講した学生は、就職後も確かに違うという定評が行き渡ることを目指しています。


 プロフィール

(いまい・しげたか)
☆一九四八年 愛知県生まれ
☆一九七九〜一九八一 ボン大学教育研究施設留学
☆一九八三年 東京大学大学院教育学研究科博士課程学校教育学専攻満期退学
 教育学博士(一九九○年)
☆一九八三年 東京工芸大学講師、以後助教授、教授を経て
☆一九九七年 広島大学教授
☆所属 広島大学大学教育研究センター
☆専門 カリキュラム理論



 

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