「いま時の…」に思う
竹 林   守

 


 車の運転をしたい一心で、故赤木先生の研究室の門を叩いた。直立不動で先生の面接を受け、入室を許可された時のうれしさ。早速、グランドにコースを画いて研究室のシボレー、いすゞトラック、ウェポンキャリア等で練習開始。四十数年前の千田町の工学部グランドであった。試験場は大芝、試験車はポンティアック。不合格の口惜しさや、先生に怒鳴られながらの路上運転も懐かしい。
 自分にとって、ほんの少し前の出来事でも、今の学生諸君にとって四十数年前の話は遠い昔のこと。丁度、私が当時に大正時代初期の話を聞いたと同じことであろう。古き良き時代とは言っても、当時は当時なりに世の中はめまぐるしく早く変化していた。
 「エデンの東」のジェームス・ディーン、「太陽の季節」の石原裕次郎に代表される青年像。爆発的に流行したマンボのリズム。太陽族、マンボ族と呼ばれる若い人たちの行動の変化を見て、当時の先輩たちからは、「いま時の若い人は」という言葉が盛んに出た。 そして日本の将来を心配していた。しかし、この若者たちは高度成長の牽引車といわれる「企業戦士」となったのである。
 今の若い人たちに対し、今度は我々の世代が同じ言葉を投げている。私はこれに対し楽観的である。いつの時代でも、「いま時の」と「私の若い頃は」は繰り返される。若い人たちは常に進歩的で、秩序や習慣、枠組みや制度を変える源となっている。
 今まさに、日本は大きな変革がなされつつある時である。大学を取り巻く環境も大きく変わろうとしている。従って、大学も、先生方も、学生も変わらねばならない。それぞれが、自己変革する為の勇気と情熱に満ち溢れてくることを期待してやまない。



プロフィール        
(たけばやし・まもる)
☆生年月日:昭和十年四月九日生
☆出身地:広島市
☆最終学歴:昭和三十四年三月 広島大学工学部機械工学科卒業
☆職歴:昭和三十四年四月 東洋工業(現 マツダ株式会社)入社
 平成九年六月 代表取締役会長
 (財)マツダ財団理事長
 広島大学創立五十周年記念事業後援会会長




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