おもいきって変わります (新)教育学部・教育学研究科は! |
1 理論と実践の統合による 新たな教育諸科学へのチャレンジ 昭和二十四年に発足した新制広島大学教育学部は、学生数九一〇名(四年課程四三〇名、二年課程四八〇名)を擁する巨大学部ながら、戦前の旧教員養成機関と旧文理科大学の寄り合い所帯でした。この初期の教育学部は、昭和五十三年、東千田町キャンパスと福山分校を教育諸科学の基礎研究と中等教育研究を中核にした教育学部に、また、東雲分校を義務教育諸学校教員の計画養成を目的とした学校教育学部に、それぞれ改組して、広島大学の教育系二学部体制が整備されました。 時あたかも、科学技術の飛躍的進歩、高度情報化、少子高齢化、国際化、生涯学習社会の進展など、人間を取り巻く環境の急激な変動により生じた教育諸課題に、即応的に対応できる教育実践や、その裏付けとなる新たな理論的研究が必要とされる時代となってまいりました。特に、少子化と国家財政のひっ迫による教員養成系学部学生の定員削減が、学校教育学部に及ぶに至り、教育学部においても学生の出口管理からの進路開拓や大学院重点化問題等の解決が急務であることから、昨年二月の部局長連絡会議以後、両学部の一体的改組問題を論議してまいりました。 しかし、両学部の改組・統合は、昨今の情勢を理由とした消極的なものからでなく、教育学の基礎・基本からわき出た理念の下に行われるべきと考えました。そこで、二十一世紀の教育は、教える側から学ぶ側の論理に立ち、二十世紀教育の再構築を図ることが必要とされており、両学部の改組・統合にあたり、第一に、教育諸科学の理論研究と実践研究を進展させ、理論と実践の統合による新たな学際的、総合的研究を創生すること、第二に、幼児教育から高等教育に至る教育諸課題の解決を、二十一世紀の生涯学習時代にふさわしい形で図る教育・研究体制を確立すること、という積極的な理念を掲げたのであります。この理念の下、二十一世紀教育の担い手である実践的な指導力を持つ質の高い教員を始めとする幅広い教育関係従事者の養成や、高度な学識を有する研究者の養成などを目的とする(新)教育学部・大学院教育学研究科を構想しました。 加えて、欧米文化啓発型の旧帝国大学モデルに対し、文学・理学を縦軸に、教育を横軸に据えた純日本型大学モデルであった旧広島文理科大学の伝統を背景に、以前とは異なる枠組で、教員養成から教育の基礎学までの幅広い教育・研究が可能となる、我が国唯一の教育学部・大学院の二十一世紀モデルを構築するという観点から、今回の改組・統合に臨んだのであります。 2 学部の特色と組織の概要(図1) (新)教育学部(定員五二五名)の一番の特色は、従来の学科制による学部教育の硬直化を改善し、学生の多様な学習ニーズに対応し、幅広い社会的視野と課題探求能力の育成を重視した学部教育を行うため、五つの類(一般的には課程制と呼ぶ)に所属する学生の教育に、全教官体制で当たる「類\大講座制」を採用した点です。 続いて、学部の五つの類の概要を説明いたします。第一類(学校教育系)では、障害児教育教員を含む初等学校教員の計画養成を行います。また、自然・技術・社会の連関から教育を学ぶ第二類(科学文化教育系)、言語文化やその国際貢献から教育を学ぶ第三類(言語文化教育系)、心身並びに生活を通して生涯教育を学ぶ第四類(生涯活動教育系)では、各類に関わる教育学的素養をもって産業界や公共機関等で活躍する人材の養成や、中高一貫教育を視野に入れ、需給に弾力的に対応した中・高等学校教員の養成を、開放制の下で行う教育体制を備えております。第五類(人間形成基礎系)は、教育の基礎学である教育学と心理学を学ぶ分野で、学校教育や生涯学習に関わる教育行政や心理関係の職能従事者の人材養成を行います。 さらに、五つの類では、それぞれの類を構成する複数の研究領域に対応した教育コースを設けて、学生のニーズに柔軟に対応する教育体制を組んでおります。
3 研究科の特色と組織の概要(図2) (新)教育学研究科は、博士課程前期・後期制を採用しており、その特色を大きく四点にまとめることができます。 第一点は、前期と後期の専攻構成です。すなわち、多様化する教育課題の解決や先端的教育課題に対応するため、前期(定員一四五名)は、教員、教育行政や臨床心理の専門家等の高度専門職業人の養成を中心とした教育・研究指導を行う八専攻で構成し、後期(定員四三名)は、理論と実践の学際化・統合化・先端化を推進する教育・研究指導を行うため、研究領域の共通性に基づき複数の前期専攻をまとめた三専攻で構成しています。 第二点は、教育・研究指導体制です。前期では、現職教員等の社会人を積極的に受け入れ、現職教員の資質向上にも力を入れた体制となっています。特に、学習科学、科学文化教育学、言語文化教育学、生涯活動教育学の各専攻では、研究領域に対応した専修を設け、きめ細かい研究指導にあたります。 後期では、狭い専門分野に閉ざされた研究指導の弊害を克服する「コースワーク」型の教育・研究体制を敷き、学際的・総合的観点から、学生が先端的研究を積極的に行う基礎的能力や、将来の教授・指導に柔軟に対応できる能力などを養う体制にしています。 第三点は、全専攻を通しての評価研究の推進です。すなわち、幼児教育から高等教育に至る「評価」に関わる理論的・実践的研究を体系的に推進し、二十一世紀の教育改革を広島大学が提案することをめざしています。 第四点は、高等教育開発専攻を設けた点です。すなわち、博士課程で、後期中等教育と高等教育の接続、高等教育のカリキュラム開発、大学教職員の職能開発等、大学改革に直接資する研究と人材養成を行います。これにより、我が国初の高等教育研究の専攻が誕生したことになります。
4 教官組織の特色 新たな教官組織は、教育諸科学の研究領域を十六の大講座に再編し、現在の教育学部・学校教育学部の教官は各講座に所属します。また、学部附置の幼年教育研究施設、教育実践総合センター、障害児教育実践センター、全学附置の大学教育研究センターの教官が、協力講座として学部及び研究科の教育・研究指導に参画します。また、今回の改組・統合で、生涯学習社会の意義・目標・方法開発を研究する学習開発学講座や、初等教育の理論や方法を研究する初等カリキュラム開発講座が新設され、さらに、理論と実践を統合した教育・学習文化に関わる九大講座が再編されたことは、我が国唯一の特色ある講座の誕生とともに、二十一世紀の教育改革を指向する学部・研究科としての特色を示すものと言えましょう。 (新)教育学部・教育学研究科は、以上の改組・統合の体制を生かして革新的な教育・研究体制を創生し、広島大学における二十一世紀の大学改革の先陣を切るつもりです。 |