自著を語る
『弾塑性力学の基礎』
著者/吉田総仁
(A5版246ページ)
3,300円(本体)
1997年/共立出版
弾塑性力学は、固体(主に金属材料)の弾性(固体変形後に力を取り除くと完全に元の形状に戻る性質)および塑性(永久変形が生じる性質)変形に関する力学である。これは、機械、土木、建築などの分野における強度(壊れにくさ)や剛性(変形のしにくさ)を考えた構造物や種々の製品の設計、塑性加工に代表される材料加工プロセスの解析には不可欠の学問である。とりわけ近年ではコンピュータそのものの大規模・高速化に伴い、弾塑性力学を用いて、実際の製品に近いものの強度解析や加工プロセスのシミュレーションが可能となってきている(自動車の衝突シミュレーションなどの映像をテレビなどで見ることもあるが、これもその例のひとつである)。
本書は弾塑性力学の現代的な入門書であるが、執筆するにあたり留意したことは主に次の二点である。第一は、読者(工学系の学部生、若い技術者を対象)に分かりやすく内容を解説することである。そのために、基礎的な考え方や概念の理解を重視し、数式の誘導などはできるだけ省略せずに記載する、専門家にとっては常識的に使われている概念や用語の定義もあらためて解説する、簡単かつ具体的な問題から複雑かつ一般的な問題へ議論をする、などを心掛けた。第二は、弾塑性力学が実際の最先端工業分野で使われている(あるいは研究されている)現状を反映したものにすることである。本書では、機械・構造工学分野における近年の最高の発展技術のひとつである有限要素法(Finite Element Method 通称FEM)への応用に多くページを割いており、その中で比較的新しい理論(例えば剛塑性FEMなど)も紹介している。
基礎的な事柄の解説と最先端の理論の紹介を同時に目指し、それを与えられたページ数の中で完璧に実現することは実際には不可能であり、特に自分の研究分野や内容についてより深く書きたいという欲求を抑えるために私自身も大きなストレス(ちなみに弾塑性力学ではstressを応力と呼んでいる)を感じたりもした。このようにして出来上がった本書であるが、こうした意図が読者に少しでも伝わってくれればと願っている。
プロフィール
(よしだ・ふさひと)
☆一九四九年 千葉県生まれ
☆一九七二年 東京工業大学工学部機械物理工学科卒業
☆一九九四年 広島大学工学部第一類(機械系)教授
☆専門 固体力学とその応用(特に塑性加工)
広大フォーラム31期4号
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