様々な学部のチャレンジ 



アジア多国間交流円卓会議
東南アジアにおける科学技術協力と学術教育交流

 平成十一年十月一日、国際協力研究科の設立五周年とマツダ財団設立十五周年を記念したアジア多国間円卓会議が、広島中央サイエンスパーク内にある中国電力(株)技術研究センター会議場において、両者の共催として行われた。これは同時に広島大学創立五十周年記念事業の一つとしての企画でもあった。
 基調講演に先立ち、原田康夫学長、中山修一研究科長、竹林 守マツダ財団理事長からの挨拶があり、上田博之東広島市長からは祝辞をいただいた。
 円卓会議では、多国間交流ネットワーク構築のための方策と今後の課題や展望について討論を行うことを目的とし、京都大学東南アジア研究センター教授白石 隆氏による基調講演を導入とし、加藤圭一氏(国際協力事業団・国際協力総合研修所・所長)、日下部治氏(東京工業大学・工学部・教授)、桑原正章氏(京都大学・木質科学研究所長・教授)、小瀬邦治氏(広島大学・工学部・教授)、関 達治氏(大阪大学・生物工学国際交流センター・教授)、中島健次氏(日本学術振興会・国際事業部・地域交流課長)、藤井信生氏(東京工業大学・理工学国際交流センター長・教授)、吉尾啓介氏(文部省・学術国際局・国際学術課長)ら、アジア諸国との交流に深く関わっておられる有識者をお招きし、茂里一紘氏(大学教育研究センター長・工学部・教授)、斎藤公男(国際協力研究科・教授)らの司会で活発な討論が行われた。参加者は、本学関係者のほか、一般市民も含め一二五名であった。


基 調 講 演

 京都大学東南アジア研究センター教授白石 隆氏が、「アジアの中の日本、これからの知的交流を考える」と題して約一時間の基調講演を行った。その内容の要旨は以下の通りである。
 第二次大戦以降、日本と東南アジアの知的交流を、アジアの地域的な政治経済の構造の文脈の中で整理し、地域の政治経済の構造が変化する中で、今後、学術交流、教育交流、科学技術交流が進むべき方向について考える。

■アジアの地域的な政治経済の構造
 一九四○年代後半から五○年代初めにアメリカはアジア地域でアメリカの持っている優位を永続的に保持するために 「ヘゲモニー(構造的優位)」という地域的な政治経済の仕組みを作った。すなわち、(1)アメリカを中心とした二国間安全保障システムづくり、(2)アメリカと日本と東南アジアの三角貿易のシステムづくり、(3)日本の軍事力の包摂とエネルギー供給のコントロールによる日本のジュニアパートナー化、(4)東南アジアの経済政策を担う人材育成の制度づくり、などである。

■今後の知的交流、学術教育交流、科学技術交流のあり方
 日本と東南アジアの長期的な政治、経済、文化における連合体制づくりに資するような人材の育成、制度づくりが必要である。具体的には、(1)日本から東南アジアへの留学生派遣制度、(2)民間による交流事業の支援制度、(3)人づくりだけではなく、制度づくりに踏み込んだ科学技術交流、(4)人文・社会科学を中心とした知的交流、学術交流などである。


円 卓 会 議

 円卓会議第一部では、まず各討論者から意見発表が行われた。日下部氏は「学術学会多国間交流ネットワーク」、吉尾氏は「大学等の国際化の推進とその戦略的取り組み」、中島氏は「多国間交流への模索」、関氏は「多国間交流の試み」、藤井氏は「理工学分野における交流」、加藤氏は「技術支援、教育支援」、桑原氏は「木質資源の有効利用における交流」、小瀬氏は「海上輸送分野における交流」、白石氏は「基調講演の補足と討論者への意見」などをキーワードとして意見発表があった。その後、陪席討論者やフロアから討論やコメントを受け、休憩を挟んでそれらをまとめ、円卓会議第二部で引き続き討論を行った。まとめられた主な論点は、(1)多中心交流の問題、(2)文化宗教の問題、(3)現地の問題点、(4)日本側の問題点、(5)アジアから学ぶことは、(6)多国間交流のあり方などであった。今回の討論では、多国間交流の有効な実施のための具体的な提言には至らなかったが、アジア交流のプロジェクト推進において、多国間交流の重要性並びにプロジェクト担当者間での経験や知識の共有の重要性については、本円卓会議での共通認識とすることができた。また、このような集会を今後も開催することの必要性についても合意を得た。
 (文責・国際協力研究科・斎藤公男)


教育学部・学校教育学部主催公開シンポジウム
「生涯学習時代の学力を問う―学力研究の最前線から―」
 国際化・情報化・技術革新など社会の急激な変化に対応し、生涯学習時代を生きる二十一世紀の市民に求められる資質、学力とは何か。最新の研究成果を踏まえるとともに各方面の第一人者の提言を得て、学力を問い直そうとする公開シンポジウムが、十月八日午後二時からメルパルクHIROSHIMAにおいて、二〇〇人余りの参加者を集めて開催された。
 原田康夫学長の開会挨拶につづき、高橋超学校教育学部長による基調講演では、戦後の学力観の変遷をたどり、これから必要とされる基礎学力とそのための学習研究の必要性が提言された。次に、川野辺敏常葉学園大学教授が生涯学習の観点から「知ること、為すこと、共に生きることを学ぶ力」の重要性を指摘し、小笠原道雄広大名誉教授が近代的な主体や理性中心の学力とともに身体性や感性を含み込んだポスト近代的な学力の形成を提起した。丹羽健夫河合塾進学教育本部長は現在の大学入試で求められている学力への批判的問題提起と、それでは測れない「こだわり・納得型」の学力のあり方を指摘し、民秋史也モルテン社長からは、グローバルに活躍できる英語力や論理的対話能力など企業の求める学力が提言された。
 これらの提言を受け、利島保教育学部長と二宮晧教授のコーディネートにより意見交換が行われ、多様な文化、世代、個性の差異を認めあい、またその差異を契機とした学習による学力形成のあり方を求める、という方向性が提示された。会場には一般参加者や教育関係者、大学教員、学生など多くの聴衆が集まり、いずれもシンポジストの刺激的な提言、鋭角な分析に、二時間半が短く感じられたようすであった。
教育学部広報委員


医学部主催公開講演会
「二十一世紀に向けての医学科・総合薬学科・保健学科」
 広島大学創立五十周年記念事業の一環として、医学部三学科による公開講演会が、「二十一世紀に向けての医学科・総合薬学科・保健学科」を演題とし、十一月八日の午後六時三十分から医学部広仁会館で開かれた。一般市民の方を含め用意した一二○席を上回る方々が聴講に訪れ、学生服姿の高校生も数多く見受けられた。
 まず、松浦医学部長からは挨拶を兼ねて、二十一世紀に向けての学問の在り方を問う企画としてそれぞれの学科から講演をしていただく旨の紹介があり、また、医学部及び各学科の設立までの経緯についても併せて紹介があった。
 医学科からは医療情報部の石川澄教授から「二十一世紀の医学・医療のリエンジニアリング \社会に開かれた医療の礎をめざして」と題した講演がなされ、特に大学と地域社会を結ぶ霞情報ハイウェイの構築及び医療社会事業部の整備が必要となってくると述べられた。講演の中で、この十月一日付で霞地区全体の情報発信基地として新設された「情報メディア教育研究霞センター」と広仁会館の講演会場との間で、世界初公開のリアルタイムでの情報交換や遠隔操作のデモンストレーションが行われ、訪れた観衆の耳目を集めていた。
 総合薬学科からは本年四月に新設された大学院臨床薬学系独立専攻の小澤孝一郎教授から「薬学ルネッサンス」と題した講演がなされ、薬学科や薬学の紹介をはじめとして、薬剤師教育と基礎・創薬研究を両輪とした教育改革を進めていること等が述べられた。特に、薬剤師や薬学の在り方が社会から問われているという現状を、演題の「薬学ルネッサンス」という言葉で表し、薬を通して国民の健康の回復と維持に、より一層貢献することを目指していると述べられた。
 保健学科からは作業療法学専攻の宮前珠子教授から「専門職中心からクライエント(患者)中心の医療へ」と題した講演がなされ、二十一世紀の医療の一つのキーワードはクライエント(患者)中心の実践となり、個人の価値観と文脈を重視する方向性をとることが予想されると述べられた。講演の中で、脊髄損傷により首から下が全く動かなくなった患者さんによるコンピューターアートが紹介され、多くの聴衆の感動を呼んでいた。
 最後に、松浦医学部長から、この講演会に参加された学生教職員及び学外者の方に感謝の意が述べられ、締めくくられた。
医学部広報委員


総合科学部記念事業
ブレインサイエンスシンポジウム
脳を科学する
 広島大学創立五十周年記念事業のひとつとして、総合科学部は、「総合脳科学研究プロジェクト」が中心となって、ブレインサイエンスシンポジウム「脳を科学する」を十一月十二日、東広島キャンパスの中央図書館ライブラリーホールで開催した。他大学の脳研究者、本学の脳研究者、院生、学部学生さらに一般参加者など合わせて二百人を超える参加があった。

 このシンポジウムには、浦野明央教授(北海道大・理学研究科)、藤田一郎教授(大阪大・基礎工学研究科)、中村重信教授(広島大・医学部)、井上昌次郎教授(東京医科歯科大・生体材料研究所)ら我が国の代表的な脳研究者がパネリストとして招かれた。生和秀敏副学長、江口正晃学部長の開会挨拶で始まったシンポジウムでは、「人間とは何か」「ヒトとは何か」を追究する時代の到来にあって、二十一世紀のサイエンスといわれる脳科学の果たす役割を、本能・認知・痴呆・睡眠などのさまざまな切り口から講演、討論した。

 浦野教授はヒトと動物に共通して存在する本能とは何か、また、その制御の仕組みについての最新の研究成果を、藤田教授は物体を認知する脳機構についてニホンザルの研究からいくつかのトピックを、中村教授はアルツハイマー病はどうしておこるのか研究の現状と展望を、井上教授は眠りを調節する脳機構を、それぞれ紹介した。これらの講演に対して、指定討論者として広島大から堀忠雄教授(総合科学部)、仲田義啓教授(医学部)、筒井和義(総合科学部)、名古屋大から松島俊也助教授(生命農学研究科)が加わり、活発な討論が行われた。

 シンポジウムの最後には、日本学術振興会・バイオサイエンス部会座長として我が国の脳研究の推進役である青木清教授(上智大・生命科学研究所)から、本学が脳研究の拠点となるようにとの期待をこめたメッセージが公開されるとともに、総合脳研究の重要性と今後の推進について総括的な討論がなされた。牟田泰三副学長による総括と挨拶によりシンポジウムは盛会のうちに閉会した。

総合科学部教授 筒井 和義


生物生産学部創立50周年記念事業
 本学部創立五十周年を記念して多彩な事業が長期間(平成十一年九月〜十一月)にわたり行われた。"記念樹"として発行された「学部五十周年記念誌(百二十頁)」は、本学部の過去と現在をみつめ未来を展望する礎でもある。この"記念樹"のもと、「記念講演・シンポジウム・祝賀会」(十一月十三日)が開催され、学部出身者をふくむ多数の出席者を得て次世代の生物生産学をめぐっての活発な討論と盛大な祝賀会があった。祝賀会には学長(副学長)をはじめとする大学関係者、広島県、東広島市ならびに緑翠会からのご来席があった。文化功労賞受賞者 多田富雄氏による招待講演(十月二十一日)は記念事業に花を添えた。付属施設体験公開講座(九月十一、二十六日)には多数の市民が集い、参加した市民に新たな興味と感動を与えた。学部間ウォークラリー(十一月七日)では本学部に二千六百余名もの参加があった。記念品としての学部紹介絵葉書(五枚組)の作成は粋な贈り物となった。本記念事業は二十一世紀に飛躍する本学部にとって貴重な節目となるであろう。


記念事業の内容

一 学部五十周年記念誌作成
二 記念講演・シンポジウム・祝賀会記念講演
  ・「二十一世紀における環境と食糧生産」
   森本 稔氏(農林水産省水産庁次長)
  ・シンポジウム
   「次世代の生物生産学」
   演題
   「海と陸のリサイクルシステム」
        濱崎恒二氏(生物生産学部)
   「クローン技術のパワー」
     前田照夫氏(生物生産学部)
   「フードサイエンスの新しいパラダイム」
          加藤範久氏(生物生産学部)
   コメンテーター
     蜂屋 巌氏
      (明治製菓技術開発研究所長)
     古川 力氏
      (農水省蓄試計量遺伝育種研究室長)
     山内 稔氏
      (農水省中国農試土壌管理研究室長)
  ・祝賀会
三 招待講演
   「超システムとしての生命」
     多田富雄氏(文化功労賞受賞者)
四 附属施設体験公開講座
   「親子で体験する生き物の世界」
  ・農場と食品工場の体験コース
   「動物達と仲良くなろう」
(豚、羊、牛たちとの交流、牛乳の試飲、羊毛糸紡ぎ)
   「何ができるかな?」
(ソフトクリーム作りと試飲)
  ・水産実験所と練習船「豊潮丸」の体験コース
   「藻場の生き物たち」
(藻場の観察、生物の採取、名前しらべ)
   「大海原を走ってみよう」
(しまなみ海道体験航海、海洋観測、ロープ・ワーク、操舵)
五 学部間ウォークラリー
六 学部紹介記念絵葉書の作成


歯学部公開講座
『命あるかぎり楽しく食事を』を実施して
 平成十一年十一月二十八日の日曜日の午後一時より、歯学部の公開講座『命あるかぎり楽しく食事を』が中国新聞七階ホールで開催された。三○○名前後の市民の参加があり、開演当初から会場は熱気に満ちていた。特別講演では、しずおか健康長寿財団理事長(もと静岡県立大学学長)の星猛先生が『健康老死』という新しい概念にもとづいて興味深い話をされた。とくに、寿命は延びたものの、寝たきりになることで、生きがいをいや応なく奪われしまいがちな超高齢化社会において、健やかに老い、健やかな死を迎えるために、食事の方法とその内容がいかに大切な意味を持っているかについて、分りやすく話していただいたことの意義は大きい。さらに、健康に老いることによって高齢者の活力(元気)は上がり、その活力が社会のために大いに役立つことを、アメリカ社会の高齢化現象と高齢者の社会奉仕活動への積極的参加等を例に話をされた。
 続いて、座長の前田憲彦(口腔解剖第一講座)が、星先生の講演内容を引き継ぐかたちで本公開講座の主旨説明を簡単に行った後、公開シンポジウムが始められた。加藤幸夫(口腔生化学講座)、栗原英見(歯科保存学第二講座)、土肥敏博(歯科薬理学講座)、岡本哲治(口腔外科学第一講座)の四人の教授が、『あごの骨と骨の健康の大切さ』、『学校では学ばない歯を守る方法』、『食べることと脳の健康』、『遺伝子が語る口とあごの病気』について、それぞれ専門的な立場から話題を提供した。内容が実に充実していたという参加者からの声がスタッフ一同への最高の労いであった。
 口の機能が全身的な健康の源になることをわかりやすく説くことによって、歯学部の存在価値を地域住民の方々にアピールできた今回の企画は成功したと評価できるのではなかろうか。さらに、広島大学創立五十周年に合わせて作られた歯学部のロゴマークを多くの人々に披露できたことの意義も大きい。


シンポジウム
法学教育の未来を考える
 広島大学創立五十周年記念事業の一環として、法学部は「二十一世紀の法学教育を考える─法科大学院構想と法学教育─」と題するシンポジウムを、基調講演、基調報告及びパネルディスカッションの形式で、十二月四日(土)午後一時から五時三十分まで広島市内のホテル会場で開催した。  基調講演では、元最高裁判事の園部逸夫先生に「二十一世紀の司法を支えるもの\法律家の育成」と題して、法律家育成の方向性を、最高裁時代の経験を通して明らかにしていただいた。
 また、基調報告では、今後、法曹の質と量を拡充するには、どのような法学教育でなければならないのかについて、文部省(合田哲雄高等教育局課長補佐)の視点、法務省(小津博司人事課長)の視点、さらに広島大学法学部(平野敏彦教授・阪本昌成教授)の視点から検討課題が提示された。
 さらに、パネルディスカッションにおいては、各界で活躍されているゲスト(池上徹マツダ法務部長、小津法務省人事課長、牧野光太郎辰巳法律研究所企画制作本部統括、森下幾三広島県人事課長補佐、渡辺直行弁護士)をお迎えして、二十一世紀における法学教育のあり方を阪本教授とともに討議していただき、貴重なご提言をいただいた。
 法学部は、これまでもいろいろと改革の努力をしてきたが、法曹養成の機関として果たしている役割は、十分とは言えない。これを機に、法学部教官一同、法学教育の意義と目的について、根源に遡って真剣に考え直したいと思っている。




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