サミット 広島から世界へ 


21世紀の高等教育改革と大学のマネジメント
6ヵ国学長サミット広島会議の開催


 文写真・有 本  章 大学教育研究センター教授
6カ国教育研究プロジェクト運営委員会委員・高等教育プロジェクト代表


 広島大学創立五十周年記念事業の一つとして、六カ国学長サミット広島会議が、去る九月二十、二十一の両日、広島国際会議場を主会場に開催された。広島大学、ペンシルバニア大学、六カ国教育研究プロジェクト運営委員会の主催、IDE(民主教育協会)の共催、文部省の支援のもと、外国からは学長、研究者、企業関係者など二十二名、日本からは文部省関係者、学長、研究者、オブザーバー等を含め一六〇名、総勢一八○余名の参加を得て盛会裡に行われた。レセプションでは、原田康夫学長の歓迎の挨拶とオペラをはじめ、有馬朗人文部大臣(村田直樹私学行政課長が代理)、藤田雄山広島県知事、秋葉忠利広島市長、ロバート・ジェムスキーペンシルバニア大学教授、茂里一紘大学教育研究センター長から挨拶を頂戴した。
 本サミットは、一九九四年に開始された東西六カ国(中国、ドイツ、日本、シンガポール、スイス、アメリカ)の教育研究共同プロジェクトの中、日本が担当している高等教育プロジェクトの一環として行われ、一九九七年二月に大学教育研究センターが主催した国際セミナー「世界の大学改革―高等教育の大衆化段階における現状と展望」を踏襲したものである。
 今回のサミットの目的は、各国共通に市場化、情報化、グローバル化、生涯学習化などの社会変化に対応して、社会的条件、機能、構造の再検討を迫られている現在、学長、研究者、政策担当者、企業関係者等が一堂に会して、大学のマネジメントのあり方を中心に集中的な議論を行い、各国の問題点や課題を検討して、二十一世紀の高等教育改革の方向を模索することに置かれた。統一テーマ「二十一世紀の高等教育改革と大学のマネジメント―経済・技術・社会・政治が高等教育に及ぼす影響」(Higher Education Reform for Quality Higher Education Management in the 21st Century: Economic, Technological, Social, and Political Forces Affecting Higher Education)のもとに、(1)高等教育政策のフレームワーク、(2)戦略的大学運営、(3)高等教育と社会―経済成長における大学の役割、(4)高等教育とテクノロジー、の四つのセッションを設定して議論が展開された。各セッションの報告者と報告テーマ等はプログラム(抜粋)に示されているとおりである。
 ハワイ大学のモーティマ学長が基調報告を行い、続く四つのセッションでは、本学の原田学長、西安外国語大学のルイチン学長、ケンタッキー大学のジンサー学長、京都大学の長尾学長(江原武一京都大学教授が代理)、フランクフルト大学のマイスナー学長、ジュネーブ大学のウェーバー前学長、ナンヤン工科大学のチェン副学長、東京工業大学の内藤学長を含め合計十四件の発表が行われた。二日間にわたる熱心な報告と議論の成果は、総括討論でタイヒラー教授(カッセル総合大学)によって集約されたほか、プレスリリースによって公表された。その内容は次のとおりである。
 一、大学の特色は、教育と研究と社会サービスを提供するところにある。大学は今や社会を統合する一つの構成要素となっている。六カ国に共通して高等教育が拡大し、必要な資源が増大している現在、大学は政府の計画や政策の重要な要素となった。
 二、その結果、アカウンタビリティや教育内容の評価に対する要求が増加し、社会的必要性や市場の力に積極的に反応することが要求されることになった。大学は社会における自らの地位を正当化するために経営能率を上げなければならない。その際、学問のオートノミーは科学や文化の発展を政治的な支配から守るために、民主社会において本質的な大学の特質であることが重要である。
 三、同じような発展のパターンがサミットに出席した六カ国すべてに見られる。違っているのは、成長と変化の割合だけに過ぎない。
 四、大学の再生には以下のことを達成する必要がある。(1)社会的必要に対してより早く反応すること。(2)生涯学習のよりよい機会の提供―特に、専門家や職業人のための短期の柔軟なコースを提供すること。(3)行政や管理運営を能率化すること。(4)研究の生産性を高めること。D情報テクノロジーのための施設を組み込むこと。(5)透明な評価システムを実現すること。
 以上のように、大学が過去からの経験と未来からの挑戦に対峙しながら、社会変化に対応して創造的な改革を期待されている点では、世界的に共通した課題であることが確認され、同時に学長のリーダーシップが求められ、適切な組織改革、教育、研究、サービス機能、マネジメントの見直しが必要なことが共通に理解されるに至った。第二回サミットはドイツで行うことが提案され、また二〇〇一年には米国において六カ国プロジェクトの総決算としての国際会議が開催されることを予定して会議の幕を閉じた。
 二日間の議論を通じて、五十周年記念事業に花を添えるとともに、プロジェクトの所期の目的が十分達成されたと考えられる。なお、開催に当たっては、種々の形で参画された方々はもとより、文部省学術国際局及び高等教育局、広島大学、特に本部事務局、大学教育研究センター等に大変お世話になったことを記し、企画責任者として、この場を拝借して感謝する次第である。


プロフィール        
(ありもと・あきら)
☆一九六九年広島大学大学院教育学研究科博士課程修了
☆所属等=大学教育研究センター教授,全国大学教育研究センター等協議会会長,日本高等教育学会理事・事務局長
☆専門=教育社会学(高等教育論)





プログラム(抜粋)

  ☆9月20日(月)
開会宣言
 原田康夫(広島大学学長)
議事日程の採択
 6カ国高等教育プロジェクト経過報告―
   −有本章(プロジェクト運営委員,広島大学)
基調報告
 ケネス・モーティマー(ハワイ大学学長)
学長セッション1:高等教育政策のフレームワーク
 □中国における政策の現状と将来
   ―ルイチン・ドゥ(西安外国語大学学長)
 □アメリカにおける政策の現状と将来
   ―エリザベス・ジンサー(ケンタッキー大学学長)
 □日本の視点から―長尾真(京都大学学長)
学長セッション2:戦略的大学運営
 □効果的な大学運営―原田康夫(広島大学学長)
 □生涯学習への対応
   ―ヴェルナー・マイスナー(フランクフルト大学学長)
 □財政計画と運営
   ―ルック・ウェバー(ジュネーブ大学教授・前学長)
 □アメリカの視点から―ケネス・モーティマー(ハワイ大学学長)
一日目の討議のまとめと二日目の議事の採択
歓迎レセプション(会場:リーガロイヤルホテル広島)

☆9月21日(火)
学長セッション3:高等教育と社会―経済成長における大学の役割
 □シンガポールの視点から
   ―リンダ・ロー(シンガポール国立大学助教授)
 □政策担当者の立場から
   ―村田直樹(文部省高等教育局私学部私学行政課長)
学長セッション4:高等教育とテクノロジー
 □テクノロジーと効率化
   ―ステファン・ゴールディング
    (モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター社社長)
    ダレン・ラッシュワース
    (オラクルアカデミック・イニシアティブディレクター)
    ロビン・ベック
    (ペンシルバニア大学情報システム・コンピュータ担当准副学長)
 □カリキュラム改革とテクノロジー
   ―チャンニン・チェン(ナンヤン工科大学副学長)
 □21世紀の科学技術と大学―内藤喜之(東京工業大学学長)
総括セッション:21世紀に向けてのフレームワーク
 □討議のまとめ:ケネス・モーティマー(ハワイ大学)
         ウルリッヒ・タイヒラー(カッセル総合大学)
プレス・リリースと今後の日程:議長
  チェン・デービス
  (6カ国プロジェクト運営委員,ペンシルバニア大学)
  キース・モーガン(前広島大学客員教授)
 □サミットプレスリリース
 □2001年会議(ワシントン)へ向けて
閉会の辞
 有本章(高等教育プロジェクト代表)
 ノエル・マッギン
  (6カ国プロジェクトシニアアドバイザー,ハーバード大学)
挨拶
 茂里一紘(大学教育研究センター長)






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