百貨店から学ぶこと
平成十一年度 中国・四国地区国立学校等事務職員民間派遣研修を受講して
文・ 塩 出 和 久
(Shiode, Kazuhisa)
学生部学生課学生係
この研修が始まる前は、一か月の研修として派遣されるのが株式会社福屋(百貨店)営業第一課で、研修内容は営業第一課において販売業務等に従事し、接遇について体験するとともに、顧客ニーズの収集の仕方、業務に反映させる仕組み、業務の合理化、原価意識の徹底等について学ぶということで、どんな研修になるんだろうという期待と不安でいっぱいでした。
しかし、終わってみると一か月があっという間に過ぎ、福屋の皆さんにも大変よくしていただいたので、大変有意義な研修を送ることができました。
研修最初の二日間のオリエンテーションにおいては、現在の消費動向、消費の質の変化、全国の百貨店の売上動向、さらには広島の百貨店事情等をくわしく説明していただき、福屋の目指す百貨店について学ぶことができました。
この福屋の目指す百貨店というのは、第一に、大規模ではなく、他の百貨店にない特色を持つ質の高い百貨店を目指すということ。これは、おもてなしの心(ホスピタリティ)をもって、主要顧客層も四十歳代から六十歳代に絞り、お客様がいつでも休んでいただけるレストスペースを確保する。第二に、この商品あるいはこのメーカーはここしかない、あるいは他のどの百貨店より品揃えが多いというNo.1主義を目指す。第三に、広島のお客様への徹底したサービスを行うため支店を持たずに分店だけによる分店政策を実施している。第四に、カード会員のお客様や外商のお客様へのサービスの提供等、固定客を確保する。ということを学びました。
これらのことは、まさにこれからの大学運営にも参考になることではないでしょうか。まず、第一に、学生に対してはホスピタリティを持って接し、広報活動もターゲットを絞って行う。学生が憩い集えるレストスペースを確保する。第二に、広島大学こそというNo.1主義を目指す。例えば、他の国立大学にはない学部の創設など、学生のニーズに合わせた特色のある大学づくりを目指す。第三と第四を合わせた政策として、広島県出身者の入学率が低いという現状を考慮して、広島県出身者に対しての推薦枠を大幅に拡大する。など、私案なので無理なことを言っているようですが、何か一つからでもできるのではないでしょうか。
また、福屋のサービスの基本は、お客様へ気持ちよい挨拶をすること。
清潔感ある売場づくりをすること。掃除をおろそかにしてはいけない。整理整頓することで色々なことに気づき、気の付く人間になる。正確な店内案内をすること。お客様をできるだけ名前でお呼びすること。買物袋をひとつにまとめてさしあげること。など簡単なことから、誰でもができることを実行する精神を養い、相手の立場に立って物事を考えるようにすることも学びました。これらのこともお客様を学生に、売場を職場に、店内を大学内に置き換えれば、そのまま、広島大学のサービスの基本ということになるのではないでしょうか。
そして、二日間のオリエンテーションの後、約二週間ハンカチ売場で勤務し、その後はバッグ売場に配属になりました。ハンカチ売場では、接客をしなくてもお買い上げいただける場合もありますが、バック売場では、こちらからのアプローチが必要です。このアプローチというのが、なかなか難しく、タイミングを外すとお客様に不快感を与えたり、お買い上げいただく機会を逃してしまうことにもなります。また、バッグ売場は荷物の運送等の力仕事があり、これについては、元来頭を使うより体を使うことが得意な私にとっては、なんら問題のないことでありました。
しかし、八階の特設会場で開催された「第六十三回革の市」の撤去作業は、驚きました。午後五時に販売を終了して、展示してあった靴やカバン、財布等をメーカーごとに大きな段ボールに詰め、全員総掛かりで、すさまじいスピードで商品センターに返送するのですが、女性の職員も重たいダンボールをかついで、汗まみれになって働く姿には、感動しました。外見は、きらびやかに見える百貨店ですが、実際に勤務してみると、外見とは裏腹に厳しい社会だなあということを実感しました。
以上のように、まったく違う業種だと思っていた百貨店にも、これからの大学運営に共通することがたくさん詰まっているように感じました。
このほかにも、この研修で多くの人を知り、たくさんの事を学びました。今後もこの研修を続けていただき、多くの大学職員に多くの職種の経験をしていただいて、自分自身の啓発もさることながら、今置かれている大学の立場を把握して、今後の大学運営に役立てていただきたいと思います。
ハンカチ売場で(筆者右)
広大フォーラム31期5号 目次に戻る