自著を語る

Foundations of Quantum Chromodynamics
著者/牟田泰三
(B5判、424ページ)
48ドル(本体)
1998年(第2版)/
World Scientific Pub. Co.
(初版出版は1987年)
 



 本書は、素粒子論分野(物理学)の専門書で、量子色力学(Quantum chromodynamics)に関するものです。

量子色力学とは?
 古来人々は、自然がどのような基本的な要素からどのような法則に従って出来ているのかについて興味を抱いてきました。ギリシャ時代の自然哲学者デモクリトスは、万物は不変な構成要素「原子(アトモス)」から成ると考えました。現代の物理学者たちは、我々の世界を形作っている物質は全て、クォーク及びレプトンとよばれる根元的な素粒子から出来ていると考えています。これには実験的な証拠があります。それらの素粒子を結びつけている基本法則はほぼ数学的に解明されていて、その理論は標準理論とよばれています。量子色力学というのは、標準理論の一部で、主としてクォークの振る舞いを支配する法則を表す理論です。

研究の軌跡
 私は、一九七四年から一九八二年頃にかけて、量子色力学の分野で研究をしていました。この時期には、素粒子論の分野では、次々と新しい事実が発見され、活力に満ちていました。量子色力学も一九七四年に発見され、実験的な裏付けを得て、この時期に次第に確立されていきました。量子色力学建設の輝かしい時期に居合わせ、私もそれに参画できたことは、生涯思い出に残ることです。この時期に私たちが見いだしたMSバースキームが、その後物理学者の間で一般的に使われているのは嬉しいことの一つです。本書は、自分自身の研究成果も含めたこの時期の世界的な研究の集大成であり、この方面の研究に進む若手研究者のための教科書です。本書の初版が出て十年あまり経ち、有り難いことに、世界中の人々が本書で勉強してくれているようで、思いがけない国の思いがけない人から「ああ、あの本の著者があなたですか。」と言われたりします。昨年、初版本が売り切れてしまったので、出版社から第二版の刊行を促され、それを機会に、初版本にみられたミスプリの総点検をするとともに、新たな章を書き加えたりして完成したのが本書です。
 本書の初版本の原稿を書いていた頃は、私もまだ四十代で元気もあり、原稿書きに没頭して思いっきり我が儘をさせていただきました。広島大学がその自由を保障してくれたと思っています。その恩返しとでも言ったらいいのでしょうか、現在は大学運営のために働いていて、かなり研究から離れてしまいました。


プロフィール        
(むた・たいぞう)
☆一九三七年福岡県久留米市生まれ
☆一九六五年東京大学大学院数物系研究科物理学専攻修了(理学博士)
☆理学部教授(副学長)
☆専門分野=理論物理学、特に素粒子論
☆趣味=天体観測、スキー、釣り





広大フォーラム31期5号 目次に戻る