自著を語る

『生物界の左と右』
 著者/根平邦人
 (B5判、133 ページ)
 1,900円(本体)
 1998年/共立出版
 



 人の身体は基本的に左右対称である。しかし中身をみるとふつう心臓は左にあり、肺の左右は全く同じではない。脳には左右性があり、左右で機能も異なる。また、左利きが約一割というのが世界共通であるが、なぜそうなっているのか。こんな素朴な疑問から発して生物界の左右性の問題を列挙しつつ、これに焦点を当てて纏めたのが本書である。
 植物の世界も興味深い。アサガオやフジなどの茎の巻き、カボチャやキュウリなどの巻きひげの巻きの左右性は植物に固定しているのか、遺伝するのか等々。次々と面白い問題が植物界の中にも潜んでいる。また葉が展開するパターンには対生・互生の二通りあるが、対生は左右対称に葉が生じる。一方の互生は葉の出る順序を下から辿れば葉がらせんに展開することになる。ここに左巻き・右巻きの問題が生ずる。このような生物界の左右性の不思議をミクロな世界から地球・宇宙にまで視野を拡げ、さらに自然界を貫く何かの法則性を導こうとした。
 この本に先立って私は、『「左と右」で自然界をきる』(三共出版)という書を編んだが、これは総合科目「自然界における左と右」が原点である。因みにその内容を章の順を追ってみると、「形・リズム・対称性」(西浦兼政)、「量子物理の世界」(松田正典)、「有機化合物における左と右」(林 七雄)、「植物界における左右性」(根平邦人)、「動物界における左と右」(重中義信)、「脳の非対称性―右脳と左脳」(堀 忠雄)、「台風の左巻き、つむじ風は?」(福岡義隆)である。上記七人の教官の中三人は、停年・転出等でいまでは本学を去られている。


プロフィール        
(ねひら・くにと)
☆一九三六年 広島市生まれ
☆一九六六年 広島大学大学院博士課程修了(理学博士)
☆一九八三年 広島大学総合科学部 教授
☆専門分野 植物系統学・植物生態学
☆主要著書
 『系統進化をたどる』(共立出版、一九八二)、マルグリス・シュヴァルツ著『五つの王国』(共訳)(日経サイエンス、一九八七)、『進化をどう理解するか―第2版―』(共立出版、一九九一)





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