自著を語る

『大英帝国インド総督列伝』
 著者/浜渦哲雄
 (四六判、238ページ)
 2,200円(本体)
 1999年/中央公論新社
 



多彩なインド総督
 人はさまざまな思いで本を書く。私はこの本で次の三つのメッセージを送りたかった。第一に「インド総督」をもっと知って欲しいこと。第二はイギリス式人材起用法について考えてみること。第三は植民地支配の比較研究の必要性。アジアの近現代史に関心のある人ならば、インド総督の一人や二人は知っているであろう。インド総督は国家元首であるとともに行政の最高責任者であったため、総督抜きにはインド統治を論じることはできない。にもかかわらず日本にはインド総督の研究書も一般向けの本もない。本書の第一の狙いはインド総督を知ってもらうことである。
 インド総督には政治家、外交官、軍人、法律家などさまざまな前歴の人が任命された。失敗人事も少なくはないが、歴史の転換点となる重大な局面では実力のある人物が任命され、難局を乗り切った。決定的なミスは犯していない。

植民地支配の比較研究を
 これまでイギリスの植民地支配の人的側面(総督と行政官)を研究してきたが、その過程で痛感したことは植民地統治の比較研究の少ないことである。日本では戦後、植民政策論のような講座が大学から消え、個別研究しかなくなった。その結果、比較研究が難しくなり、それぞれの宗主国の政策が植民地に与えた影響がよく見えなくなったのではないだろうか。植民地政策は植民地が独立してからの宗主国との関係、独立後の経済発展にまで影響を与えており、植民地支配=悪だけで片づけられる単純なものではない。いくつかの国を比較してみると政策の功罪がよく見えてきそうだ。
 植民地統治の比較研究は歴史の研究に終わるものでなく、現在にも関係する問題である。


プロフィール        
(はまうず・てつお)
☆一九四○年高知県生まれ
☆一九六二年大阪外国語大学インド語科卒業、日本経済新聞入社
☆一九六六年日本経済新聞退社、アジア経済研究所入所
☆一九九三年三月アジア経済研究所退所
☆一九九四年四月総合科学部教授
☆主要著書
 『石油王国の悲劇』(一九七九、ダイヤモンド社)、『国際石油産業』(一九八七、日本経済評論社)、『英国紳士の植民地統治』(一九九一、中公新書)





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