構造物の疲労損傷予知および
長期応力度モニタリングのための犠牲試験片

図文・ 藤 本 由紀夫  



特許出願の背景

 最近、インテリジェント構造あるいはスマート構造などに代表される、構造モニタリングへの関心が高まっている。その多くは、使用中の構造物の応力状態や異常をモニタして、安全性維持に活用することを目的にしている。このたび出願した特許は、構造モニタリングのひとつの手法である犠牲試験片取付けに関するものである。
 犠牲試験片取付け法とは、構造部材の応力が拡大伝達されるように工夫した小型疲労試験片を、構造物に設置して一定期間モニタリングを行い、犠牲試験片に生じた損傷状況から、構造物の損傷時期や応力状態を推定する方法である。この考えは古くからあったが、小型で構造部材応力を十分に増幅でき、かつ安定した性能を有する犠牲試験片は開発されていない。

特許の請求範囲

 開発した二種類の犠牲試験片の形状を図1に示す。
 標準型犠牲試験片の本体は、長さ方向中央部に人工亀裂を有する金属薄板で、中央部をフッ素樹脂フィルムで巻き、全体を二枚の樹脂薄板に挟んで接着したものである。人工亀裂とフッソ樹脂部が自由に変形できる効果により、構造物に設置した場合、部材応力が本体に増幅伝達されるようにしている。
 高感度型犠牲試験片は、本体の人工亀裂とフッソ樹脂フィルムに加えて、本体を挟む樹脂または金属薄板にスリットを設けることにより、スリットの開閉口を利用して、応力の増幅をいっそう大きくしたものである。犠牲試験片は構造部材表面に樹脂接着して使用する。設置後、定期的に犠牲試験片の人工亀裂先端を観察し、生じた損傷状況と時刻から、設置部位の変動応力の特性値や近接部位での疲労損傷時期を予測する。
 標準型犠牲試験片は応力振幅が約五十メガパスカル以上で作動し、高感度型では約二十五メガパスカル以上で作動する。また、両犠牲試験片とも微小な亀裂発生から破断に至るまでが寿命にして約十倍あり、長いモニタリング期間を有するのが特徴である。

図1 接着で取り付ける方式の犠牲試験片


特許で期待される効果

 図2は犠牲試験片の構造物への適用イメージである。構造物の受ける変動応力の履歴を、犠牲試験片に疲労損傷として蓄える方式のため、電源や配線を必要とせず多数の部材に安価に設置が可能である。橋梁や鉄橋、クレーン、船舶、プラントなどに取り付けて、定期点検や見回りの時間を利用してモニタリングし、部材が受けた変動応力の大まかな特性を把握して保守管理などに利用する。部材応力の推定精度は、実験室であらかじめ、構造物の受ける荷重パターンに対して実験を行っておくと向上させることができる。

図2 構造物への適用イメージ



将来の展望

 現在、犠牲試験片に疲労損傷を生じさせる最小応力振幅が十メガパスカルとなる、さらに高感度で、取付けにボルト締結や溶接も可能な犠牲試験片を開発している(図3)。また、耐環境性能の向上と、高熱環境で使用可能な接着を一切使用しない犠牲試験片の開発を目指している。

図3 ボルト締結式の犠牲試験片


プロフィール        
(ふじもと ゆきお)
☆一九五二年生まれ 山口県出身一九五二年生まれ
☆一九七五年 広島大学工学部船舶工学科卒業
☆一九八一年 工学博士(大阪大学)
☆一九八七年 コロンビア大学土木工学科客員研究員
☆現在 広島大学教授
☆所属 工学部第四類
☆専攻 構造工学専攻




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