自著を語る

『英国電気通信事業成立史論』
著者/佐中 忠司
(A4判,268ページ)
7,000円(本体)
1999年/大月書店
 



英国では、一九一一年末それまで大部分が民間や地方公営事業として営まれてきた電話事業が全面的に国有化される。その後は、第二次世界大戦後の公社形態を含めても、一九八○年代央のいわゆるサッチャーリズムのもとでの「民営化」によるブリティシュ・テレコム(BT)の誕生まで、その経営形態に大きな変化はみられなかった。BTは、現在世界有数の情報ネットワーク産業として文字通りグローバルな活動を展開している。
本著では、資本主義経済発展をリードしてきた英国内における電気通信事業、その初期の約三十年間、黎明期における事業経営の諸形態と国家の政策との歴史的実態を解明するべく、実証的な問題点の紹介と整理とを試みている。地元の資料・史料を新たに掘り起こしとくに地方公営事業形態という世界的にもまれなケースに新たな視点を据えて、その間の歴史的実態の政治経済学的分析を行っている。これまで、この分野のこの時期における歴史実態には、わが国ではもちろん地元英国においても学問的なメスの加えられた経験はきわめて乏しい。その意味ではさまざまに不十分さは否めないとしても、可能な限り現地の史料に基づき歴史的な事実関係や問題点を明らかにしようとしていること、初めてそれらの実態解明に体系的なアプローチがなされていること、さらにそれらの問題点の今日的な意義付けなど拙著『国家資本論』(法律文化社、一九八五年)の分析視角をも踏まえながら試みられていることなどの点に、本著の独自の意義があるといえよう。
現代社会の情報化ネットワーク化の急速な進展振りや世界的な合従連衡の動きは、目まぐるしい限りである。規制緩和や市場原理は当然のことのように考える風潮は依然強い。しかし、情報や通信のグローバル化が緊密化すればするほど、それに対応した適正な規制や調整のための基本的な政策が不可欠である。この基本的考察のためにも、国有化前後の英国の歴史的実態解明から学ぶべきことは少なくない。


プロフィール        
(さなか・ただし)
☆一九四〇年広島県生まれ
☆広島大学理学部・同政経学部卒、大阪市立大学大学院経済学研究科博士課程単位修得退学(一九七一年)
☆広島大学教育学部助手(一九七一年、東雲分校)、同講師、同助教授、学校教育学部助教授(一九七八年)、同教授を経て現在広島大学名誉教授(一九九七年)、広島女学院大学教授、同大学評議員
☆日本財政学会、国際財政学会(IIPF)、経済理論学会、公益事業学会、国際公共経済学会(CIRIEC)、経済学教育学会、生活経済学会他に所属





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