自著を語る

『日露戦争以後の日本外交
―パワー・ポリティクスの中の満韓問題―』

  著者/寺本康俊
 (A5版,577ページ)
 17,000円(本体)
 1999年/信山社
 



〈世界の中で適切なリーダーシップをとることの難しさ〉
 国家が目標を一旦達成した後、適切な外交方針の決定は難しい。これまでの日本もそうであった。戦前の日本は日露戦争によって世界的列強に位置付けられたが、その後の日本外交は日中戦争、太平洋戦争へと続く軌跡を辿ることになる。戦後については、終戦の荒廃から高度経済成長を経て国際的地位を高めた後、日本外交は経済大国にふさわしいグローバルな役割を求める外圧と戦後の日本国内で確立された意識や政策に沿った国益を追求することを求める内圧との狭間にあって、未だ自己決定出来ないでいるといえよう。

〈戦前の日本外交の二面性〉
本書は、次の様な内容について、分析検討したものである。戦前の日本外交は、国内政治体制の中に政軍二元構造を胚胎しつつ、対外的には大陸に向かって軍事的膨張を志向した過程であったが、その傾向は特に日露戦争後に顕在化した。しかも、その際、日本外交は二面性を有しており、大陸に向かっては日本の安全保障、利権獲得のために強圧的な外交、欧米に対してはこうした大陸政策の承認を得るために協調的な外交を展開した。具体的には、占領地軍政の継続が元老伊藤の力によって退けられた後、日露戦争後の日本外交は、帝国主義的発展を企図する小村外相、日本の大陸政策について欧米列強の承認を取り付けた林董外相の外交を使い分けながら進められた。しかし、日中、日米間の問題についての根本的解決には至らず、日本外交は中国ナショナリズムの高揚と欧米列強の批判に直面する。以上の様に、本書は、日本や欧米の外交文書等を使用して、パワー・ポリティクスを視座に置きつつ、満韓をめぐる日本の外交政策決定過程を中心に、さらに日本と欧米列強との相互関係を実証的に分析し、その体系化と特質の抽出を試みたものである。


プロフィール        
(てらもと・やすとし)
☆一九五三年広島県生まれ
☆一九八一年広島大学大学院法学研究科修士課程修了
☆現在、広島大学法学部教授(専攻:外交史)
☆博士(法学、神戸大学)





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