フォトエッセイ(50) キャンパスの植物

文写真 佐 藤 崇 之(Sato, Takayuki)
大学院教育学研究科
教科教育科学専攻
(理科教育学)
博士課程後期1年
           


 ゼニゴケの仲間 
Marchantiales
 

ゼニゴケ:濃い黄緑色、葉状体の中央部に黒い線が入る。波打つように葉状体を伸ばして成長する。

ケゼニゴケ:濃緑色、硬くて厚い。表面が毛で覆われている。

フタバネゼニゴケ:全体が扁平で、秋になると縁の部分が赤紫色に変色する。杯状体が多く形成される。

ジンガサゼニゴケ:やや小型で、表面に斑点状の気室孔が目立つ。丸い雌器床が成長して盛り上がると「陣笠」のようになる。

ジャゴケ:大きく、長く成長する。六角形の気室の区画が鮮明に見え、ヘビのうろこのように見える。硬くて厚い。

ヒメジャゴケ:ジャゴケに比べるとかなり小型で、薄い黄緑色。秋になると全体が赤褐色に変色する。
  
 
  コケ植物は、蘚類、苔類、ツノゴケ類に分類できます。ここでは苔類に属するゼニゴケの仲間について紹介します。ゼニゴケの仲間は、葉っぱのような本体(葉状体)が地面を這うように成長するという特徴をもっています。地面から剥いでも、からだの一部が残っていたり胞子や無性芽が残っているとすぐに広がるので、強い植物だと思われがちです。しかし、温度、湿度、日照、土壌などの小さな環境変化にも生育や分布が左右されるデリケートな植物です。
 ゼニゴケの仲間には日陰を好むものが多く、古い建造物や石垣の北側によく生育しています。また、湿気の多いじめじめした土壌を好みます。川の付近にはあまり見られず、澱んだ池の周辺などで見かけられます。静かな山の中に生育しているというイメージがありますが、代表的な種であるゼニゴケは街の植え込みや側溝などでも見つけることができます。
 西条キャンパスには七種が生育しています。教育学部の周辺ではそのほとんどが見られますが、種や分布の状況は年によって変化が見られます。平成元年の教育学部移転当初には、学部周辺ではリュウノヒゲの植栽の中に一面にゼニゴケが広がっていたと聞いています。持ち込まれた土に紛れ込んで西条キャンパスに広がったと推測されます。しかし、ここ五年の間にフタバネゼニゴケがゼニゴケの上に覆い被さるように分布を広げ、今ではフタバネゼニゴケが最も広い範囲を占めるようになりました。さらに、最近はやや湿った場所でケゼニゴケが、やや乾燥した場所でヒメジャゴケが広がってきて、古参のゼニゴケを脅かしています。植栽したときの人為的な影響は弱まり、シダ植物や草本類、木本類も進入してきて遷移が観察できます。
 ゼニゴケの仲間は材料と顕微鏡さえあれば、生殖に関わる精子と卵細胞をすぐに観察することができ、何十億年もの生命の連続性の神秘を感じさせてくれる植物です。陰気なイメージがありますが、研究の材料として数年来つきあってきた私には愛おしい存在です。

田上選手,サークルの面々と筆者(左端)



   

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