大学院先端物質科学研究科


大学改革と研究科

先端物質科学研究科長 山西 正道


 大学院先端物質科学研究科への入学おめでとう。平成十年四月に発足した当研究科(学内で一番新しい研究科)では、「理学と工学、あるいは物質と生命の境界を掘り下げる。」を合い言葉に教育・研究活動を行っています。
 ところで、諸君もご承知のように、いま全国の国立大学は、独立行政法人化に向かって大嵐の吹きすさぶまっただなかに置かれています。そこでは、これまでの日本の国立大学では全くといってよい程問題にされなかった「研究・教育の両面で市場原理にのっとった大学運営」が強く求められています。勿論、大学である限り、文化の継承という大切な役目を担っていく必要があります。従って、市場原理と文化の継承のバランスをどうとってゆくかは、大変重要な点ではありますが。
 先端物質科学研究科の教官陣は、この問題に積極的に取り組み、大学をリードする役目を果たしたいと思っています。諸君も、授業や研究を通じて、まだまだ手ぬるいと思う点やそれはちょっと行き過ぎではないかと思う点をご指摘下さい。何しろ、ここにいう大学の変革は、明治維新による大学制度の発足以来はじめての壮大な実験の場となっているのですから。

 

主体的に活動して、楽しい有意義な大学院生活を

量子物質科学専攻長 高萩 隆行


 大学院での学生の主な活動は、講義を受けることと研究室での研究活動の二つに大きく分けられます。この状況は学部四年生のときと大きく違わないように見えますが、実はその中身が大きく異なります。講義される内容は、学部では社会生活をより豊にするための教養や、自分の専門分野を将来学習するための基礎知識である電磁気学や量子力学などや、さらに専門分野についても学びますが、それらのはすでに学問分野として良く体系化されているものです。
 しかし、大学院の講義では、現在進行形の学問分野を皆さんに紹介して、今何が問題となっているかを君達が理解することが大きな目的となっています。そのため、大学院の講義内容はその分野の研究が進むにしたがってどんどん新しくなってくるべきものです。すなわち、中には以前講義していたことが、新しい発見や新しい理論が出て来たりして訂正されることも当然ありえます。
 大学院生諸君は、先生が講義する内容をただ受身で聞くだけでなく、主体的に自ら考え積極的に参加することが大切です。特に先端物質研究科では、学生諸君に積極的に参加してもらうことを主眼においた演習科目を選択必須として開設しています。少し骨の折れる講義だと思いますが、是非主体的に取り組んでください。
 学部の卒業論文研究では大体結果が予想できるテーマを行う場合が多いと思いますが、大学院での研究では、今まで明らかになっていない未知なものを少しでも明らかにすることを主眼において研究テーマを設定します。その違いを一口で言うと、学部教育は主として知の習得であるのに対して、大学院では博士課程前期とはいえ、新たな人類の知の創造の末端に参加することと言えます。
 それでは、批判精神を旺盛に先生の言葉をそのまま鵜呑みにすることなく自ら考えて、楽しくて有意義な大学院生活を送ってください。

 

真の実力を身につけよう

分子生命機能科学専攻長 木梨 陽康


 分子生命機能科学専攻への入学おめでとうございます。皆さんはこれまで一年間卒論研究をしてきましたが、それは序の口でこれから本格的な研究に取り組むことになります。修士の二年間が最も成長する時期であるというのが私の実感です。四年生の時には大丈夫かなと心配させた学生が、二年後には一人前に実験技術を身につけて卒業していくのを毎年のように見てきました。せっかく育てた学生の多くが博士課程に進まず就職してしまうのが残念ではありますが、それが私たちの役目でありまた喜びでもあります。
 今まで教科書を読むだけではちっとも理解できなかったことが、実験の必要に迫られてもう一度読み直してみると理解できることがしばしばあります。こうして得た知識は本当に身についた知識になります。これからは大なり小なり実験上の壁にぶつかって、悩み試行錯誤しながらそれを乗り越えて行かなければなりません。何の障害もなく、予想した通りの結果が得られるような実験は本当の研究とはいえません。大きな壁を乗り越えた時の喜びは大きいですが、乗り越えられず挫折することもあります。
 こうした経験を積んで真の実力が身についていきます。それは社会に出て研究とは異なる分野に進んだ時にも必ず役に立つはずです。
 先端研の基礎工事も始まり、二年後には新しい建物が立っていることでしょう。その時までに、皆さんが研究を通して発見の喜びを味わうことができ、真の知識と実力と多少の自信を身につけていることを期待しています。それを目指してお互いに頑張りましょう。

 



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