教育学部

土砂降りの世の中に飛び出す卒業生へ!
教育学部長 利島 保

 Y2K問題でミレニアムの暖かい正月は明けた。コンピュータの誤作動騒ぎも大したことにならず、我々をほっとさせたのもつかの間、マスコミは毎日目まぐるしく変わる内外情勢を伝えている。卒業生の諸君にとって、世の中は一向に止みそうにない土砂降り状態のままである。多少の晴れ間があったにしても、それは何らかの犠牲の上に、ごく一部の空間にごく一部の人たちが、つかの間の太陽を拝んでいるといった状態である。卒業を前に、このメランコリックな時代に、大学は何もしてくれなかったと、大学を恨む諸君もいるだろう。また、大学は諸君の存在を確かにする機会を与えてくれるが、決して将来のハッピーを約束してくれたわけではない。したがって、何を学んだかの自覚すら定かでない御仁もいるだろう。
 ところで、諸君の巣立つ教育学部は、平成十二年四月から学校教育学部と統合し、様変わりする。見方によれば、五十年前への昔還りだという先輩もいる。ただ、姿は変われど、広島大学の旗艦学部としての教育学部は、これからもきっと存在し続ける。その教育学部という母艦から、自前の小舟に乗り移る気概をもって卒業するであろう諸君に言いたい。「渡る世間は鬼ばかりと思いながらも、土砂降りの雨の中で傘を差し伸べてくれる鬼もいる。そのような鬼にめぐり会うには、人との出会い、人との信義を重んじることだ」と。
 さて、このことを学んでくれて、諸君は教育学部を巣立つのだろうか。
 
私の広大四年間


卒業論文発表会も終わった某日、アパートの一室でささやかな卒業座談会が開かれました。


写真左から 渡部義雄(教科・体育教育学)・田中敏也(教科・数学教育学)・山本真澄(日本語教育学科)・小林麻美(教科・音楽教育学)・市野善成(教育学科)・司会と記録 太呉壮一(教育学科)
太呉:四年間を振り返って、大学生活はいかがでしたか?
小林:最初は地に足がついてないといった感じで、ただ楽しいとかでわいわい過ごしてたけど、ふと自分は何をしたいんか考えたりした時期があって、それからいろんなことに挑戦するようになった。大学生活で一番よかったっていうのは、自分がしたいことを見つけられたことだと思う。他の人だってみんな何がしたいのかとか悩んで考えた時期なんじゃないかな。
田中:悩んだね、俺も。
小林:でも、そうやってこれからどういうふうにしようかって考えられる唯一の時間だったかもね。四年間無駄な時間も含めて、すごく時間があるから、その分色々考えられたと思う。
渡部:最初大学入った時、いろいろイベントがあって、ほんと素直に楽しかったけど、二年くらいから自分の本当にやりたいことを考えるようになった。小さい頃からの夢で、教師になりたいっていうのがあったから、やっぱり教育学部に来てよかったと思ったし。四年間振り返って一番思い出に残ってるのもやっぱり教育実習なんよね。
市野:すごい言うことわかるわ。結局時間があるからね、すごく。で、いろんなこと考えるわなあ。小・中・高ときて大学でとりあえず学生生活が終わるとなると、この先どうしようかって思ったりもするわけでね。ひとり暮しでひとりで考える時間っていうのが多いもんね。いやあ、カレー作るのが面白くってさあ。
渡部:自炊は面白いよ。はまる。
市野:やりだしたらもうちょっとやりたくなるんよ。冷蔵庫にいっぱい腐りかけの野菜とかあるわけよ。でも、不思議なことに全部カレーの味になるんよなあ。
田中:料理も四年間もやっとりゃうまくもなるよなあ。
市野:うまくなったんかなぁ。でも結局、時間があるから何かをしないともったいないと思うわけよ。考えてるだけじゃダメだし、もっと生産的なことをってね。
渡部:それでカレーを作ると。
山本:生産と消費を繰り返すわけよね。でも、私と友達なんかは、ずっと一年のときから四年まで一緒にご飯作って食べたりして、なんかあったら集まったりしてたわけじゃん。それで、一、二年の時はみんなでいるとなんか楽しいっていう感じだったけど、三、四年になったらそれぞれやりたいこと、挑戦したいことっていうのがあって、でもそんな中でたまに集まったりするのってなんかいいよね。
市野:確かに、小・中・高とかで集まったりしてたのとは違うよね。深い話をすることが増えるような気がする。
田中:夜っていう時間帯とお酒も影響してねぇ。
市野:話さなくていいことも話したりなんかして。
山本:一、二年の時の友達が、今の心の支えみたいになってるから、今もがんばれるし、これからも自分はやれるんだって思える。
渡部:友達の存在は大きいよね。
田中:確かにいろんな仲間に会えてよかったっていうのはあるよね。特に四年の教育実習のときに、やっぱりみんな同じように先生になりたいっていう夢を持って大学入ってきてて、でも、それぞれ自分にない良いところを持っててすごいなと思うことがよくあった。
渡部:いっつも一緒にいるやつのいつもは見えない別のすごい一面を見たときとか。
田中:いろんなやつに会えてよかったと思う。やっぱり出会いがいちばんの思い出かもね。
市野:なんかしめよるなあ。こんなんでしまってもうたら俺カレーだけの男になるわ。ピラフも作るのに。
一同:笑い
 
平成11年度卒業論文発表会
 




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