外国人留学生受入れに関しての要整備事項について(提言) 



文・ 金 森 貞 夫(Kanamori, Sadao)
総合科学部

 



はじめに

 周知のことながら、文部省では、「留学生受入れ十万人計画」を総合的に推進している。実際の受入れ数は、昨年になって四年振りに過去最高を更新した(五月時点五万五七五五人)が、目標とする十万人には大幅な未達というのが現状である。この十万人計画は、わが国の国是であり、各大学としては、その実現に対して相応の貢献の要ありということになろう。
 広大としても、この相応の貢献が必要であるが、そのためには、留学生事業を広大の重要事業の一つとして位置づけて取り組むことが肝要であり、また、全学的かつ多方面にわたる受入れ体制等の整備が必須となる。因って、後者についての提言をここにしたためる次第である。

西条酒まつりでの、大学院留学生とのてくてく歩き



要整備事項

一.理念と目標の設定
 広大では留学生総数が七百人を超す規模に増大している。後ればせではあるが、広大としての留学生受入れの理念と目標の早期設定が最も重要であり、これが受入れ体制等整備の嚆矢となる。

二.総合的な留学生政策の策定
 前記の理念と目標を達成するために、昨年三月の留学生政策懇談会による「二十一世紀に向けた新たな留学生政策の展開の方策についての提言」を踏まえての、総合的でシステマティックな留学生政策の策定が必要である。
(注:総合的というのは、留学生の渡日前から帰国後のフォローアップまでをカバーしたものをいう)

三.留学生受入れに関わる学内諸機関の機能強化とトータルネットワークの構築
 右記の総合的な留学生政策を効果的かつ効率的に実施するために、学内諸機関の更なる機能強化とトータルネットワーク(含、学外諸機関)の構築及びこれらをリードするコントロールタワーの設置が必要と思われる。

四.個別の要整備事項(幾つかの主要事項について)
 留学生の受入れについても、国内及び欧米諸国の大学との競争が強まる傾向にある。そこで、マーケティング戦略論において競争優位性確保のための強力なメソドロジーの一つと言われている顧客(留学生)/従業員(教職員)/マネジメント三位一体の満足論をベースとして、個別の要整備事項を考察する。

(一)顧客(留学生)満足の観点から
 留学生にとって、広大を魅力的な学問の府とすることが重要である。換言すれば、次の三つの領域において、留学生という顧客のニーズにきちんと対応できる大学へと転換することが緊要。まず、教育・研究領域においては、国内の大学はもとより、欧米諸国の有力大学とも比肩しうる質の高い教育・研究機能の具備。つまり、グローバルな競争的環境下における広大の質的充実。
 留学制度領域では、海外での入試と渡日前の入学許可制度の導入、入学資格・募集及び選抜試験方法・学位授与等における改善(まずは、秋期入学・特別選抜・ホストファミリー制度等における学部/研究科間のアンバランスの是正)、ツイニング・プログラム対応、IT活用教育(遠隔教育)実施、渡日前の日本語&日本事情学習への支援、ポスト留学支援体制の充実等による世界に開かれた広大への変容。
 そして、経済・生活領域では授業料&入学金の減免・奨学金&宿舎施設の拡充、アフターレクチャー・アウトサイドキャンパス対応の強化(含、ホームステイ、地域交流支援強化)、気軽にアクセスできる指導相談体制の構築、アパート保証人問題への現実的対応、アルバイト機会提供への配慮等が重要で、この領域においては、特に産官学が一体となって諸整備を推進することが必要と思われる。
 なお、留学生のニーズを把握し、それらを留学生政策の絶えざる改善/改革に反映させる制度と仕組みの導入も併せて検討することが必要であろう。

(二)従業員(教職員)満足の観点から
   顧客とのインターフェースをなすのは従業員であり、従業員の満足と活性化がなければ、顧客満足の向上も難しい。この両満足は密接不可分の関係にあるため、教職員が留学生受入れに注力しうる制度等の整備が必要である。具体的には、指導教官等に対する留学生受入れ実績についての適切なる人事評価制度の導入、留学生専門教育教官の人事制度の見直し(学部/研究科間の処遇差異の早期是正等)、指導教官&留学生専門教育教官等への支援充実(指導・相談スキル向上のための研鑚機会の提供、留学生指導・相談のためのガイドブックの作成及び関連情報の提供、etc.)等を挙げることができよう。

(三) マネジメント満足の観点から
   顧客&従業員満足はマネジメントの満足に通じる。従って、マネジメントにおいては、まずはこれらの満足向上に注力しながら、前述の理念に基づく総合的な留学生政策の策定&実施への取組み─強力なリーダーシップの発揮─が切望される。


おわりに

 国際化の進展に伴い、全世界で学んでいる留学生は現在百万人を超えていると言われている。欧米先進国の中でも、米・英・独・仏における留学生受入れ数は、絶対数でも、また、相対的にも多く、これらと比較すると日本は留学生小国と言わざるを得ない状況にある。かかる認識の下に、広大としても留学生受入れ体制等を整備・強化し、相応の貢献に向けて本格的に取り組む必要があるが、この提言がそのための参考となれば幸甚である。

短期交換留学生等との「東広島の休日」(筆者左から2人目)


 プロフィール

(かなもり・さだお)
☆一九四○年京都市生まれ
☆一九九九年三月マツダ(株)退社
☆一九九九年四月広島大学総合科学部赴任
☆専門分野 企業経営、国際ビジネス、マーケティング戦略




 
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