学長インタビューNo.34

 国立大学の法人化 
−今,何をなすべ きか−



 国の行政改革の一環として国立大学の独立行政法人化の動きが急速に進んでいます。  学長は大学改革の本質をついた発言で各界に反響をよんでいますが、四月二十四日、広報委員会の江坂と奥村が広島大学の現状と課題を聞きました。


改革を先取りする広島大学

江坂 国立大学の独立行政法人化について動きが急になってきていますが、なぜ法人化が必要なのでしょうか。
学長 それは、国民に見える大学を作りなさい、ということでしょう。国民は高等教育に大きな期待を抱いていたが、ノーベル賞をとるような目に見える成果があがってない、一人ひとりの先生の姿も見えない、これではだめということです。国立大学の改革は必要です。でも、他の国立大学に比べると、広島大学の改革はずーっと先を行っています。
 例えば、これまで四年間、FD(教員研修)をやって教育への意識改革を行ってきました。学生の就職問題に対応するため、広島大学がさきがけて、学生就職センターを作りました。広島大学は、世間の動向をとらえてどう対応するか判断し、改革を先取りしているわけです。
 教育学部と学校教育学部の合併も目に見える改革です。そうして、学生に対する教育がきちんとできる体制作りを心がけています。研究は研究で、皆さんどんどんやってもらいたい。


教育は日本の宝・改革の命

江坂 法人化にあたっては教育が重要だということを先日の麻生委員会(自民党文教部会、文教制度調査会、教育改革実施本部、高等教育研究グループ、三月二日の会合)でも主張されてきたとのことですが。
学長 政治家は日本をつぶそうとしているのではないか。教育が駄目になると日本はだめになります。資源のない日本でますます少子化が進む、そうなると教育だけが日本のかけがえのない資源になります。胎教から始まって三つ子の魂をちゃんとしつけるべきです。今、初等中等教育で心の教育が忘れられて、おかしなことになっている上に、大学の教育まで駄目になったら大変です。法人化がやむを得ないとしても国立大学という意識をもって教育を第一に考えてほしいと強く言ってきました。
 現在、広島大学は、スタッフの教育への意識を改革して、よい学生を世に出すための改革を率先してやっているわけです。教育を抜きにして法人化はありえません。法人化で大学が今より悪くなったらそれは政治家の責任ではないでしょうか。




法人化しても国の役割は重要

江坂 麻生委員会の答申(三月三十日)では、独立行政法人通則法による国立大学の法人化は無理であるとしていますが。
学長 私の発言が委員会の流れを変えたのではないでしょうか。公務員の定員削減とか経済だけで大学を考えると大学はつぶれてしまいます。国立大学で行われている研究者・教育者の再生産や研究の幅の広さを考えると、国立大学の存続は必要です。だから独立行政法人化に反対とか賛成とかいうのではなく、本気で大学がどうなるべきか考えないとだめです。競争的な環境は今の大学に必要です。その面で法人化は歓迎すべきです。
 しかし、仮に法人化しても、国の財政的な手当は必要です。特に、地方の国立大学にとっては命綱で、科学技術の発展にも不可欠です。広島大学もこれまで施設面の整備は進みました。しかし、やっぱり水をやらないと枯れてしまいます。
奥村 独立行政法人に反対する声の中には、研究費を増やすべきだという声もありますが。
学長 それはパイの大きさが決まってるから難しいでしょう。それより国が税制を改革して、みんなが喜んで大学に寄付するようにすれば大学は豊かになります。アメリカの大学の中には、建物すべてが個人の寄付でできたような大学もあります。法人化をするなら是非、税制改革をして、外部資金がどんどん入るようにしてほしい。そして、政府には法人化しても国立の大学であるという認識を持ってほしい。だから、独立行政法人とは呼ばずに、例えば、国立大学法人という名称にすればどうでしょうか。


未来へのビジョンと行動を

江坂 独立行政法人化を前に、広島大学では部局化への動きが慌ただしいですが、両者の関係はどのようなものでしょうか。
学長 部局化はみんなが望んでいることだから是非実現していきたいと思っています。
 しかし、部局化によって、皆さん一人ひとりの研究や教育の環境がよくならないとだめです。独立行政法人化にかかわる最大の課題は、教育して、よい学生を外に出すことです。同時に、教官も外から見える存在になってもらいたい。自己点検・評価は当然で、外部からも評価してもらい、それに対応する、という社会還元の意欲と自覚・実力が伴わなければなりません。未来に向けて大学が何をなすべきか、教官は何をなすべきか、国はそれをどのように支持すべきか、をきちんと考える。そうすれば、法人化への対応の途は自ずから開けてきます。時代を先取りしてやるべきことをやる、これにつきるのではないでしょうか。


 本学長インタビューは四月二十四日に行われたものです。その後、五月九日に、自民党、文教部会・文教制度調査会から新たに「これからの国立大学の在り方について」の提言がなされました。本インタビューで話題になっている三月三十日の文教部会・文教制度調査会、高等教育研究グループ(麻生委員会)の提言と、多少変わってきているようです。また、本号の編集作業終了後、五月末にも大きな動きがあることが予想されています。


奥村広報委員

江坂広報委員

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