自著を語る

『固体はなぜ固いか』
著者/星野 公三
(B5判,85ページ)
1,600円(本体)
1996年/丸善
 



〈ミクロな観点から〉
 「固体」は文字どおり「固い物体」なのだから、固いのは当たり前のことなのだが、「固体はなぜ固いか」をミクロな観点から理解するには、固体を構成している原子のレベルで考える必要がある。本書では、固体とは何か、固いとはどういうことか、固体はなぜ固いのか、という三段階で述べてある。まず、固体とは何かを理解するために、固体、液体、気体の違いについて、原子配列の規則性、密度およびタイムスケールなどに基づいて考えている。私たちの身の回りには、規則的な原子配列をもつ固体結晶だけではなく、ガラスやアモルファス合金などのような乱れた原子配列をもつ固体もある。
〈定量的に理解するには〉
 では、固体が固いとはどういうことか。固体の固さを定量的に表す種々の固さの定義が、金属材料学や物理学で用いられているが、いずれも固体に力を加えたときに生じる固体の変形の割合を固さの基準にしている。この固体の変形しにくさ、すなわち固体の固さを定量的に原子レベルで理解するには、固体を構成する原子の間に働く力を知る必要がある。つまり、原子間力に基づく固体の凝集機構の理解こそが、固体の固さをミクロな観点から理解する上で重要なのである。本書では、原子間力と固体の固さの関連を体積弾性率などを例にとって示している。さらに、ダイヤモンドの固さの秘密を明らかにするとともに、固い新素材の例として、アモルファス合金、超硬合金、セラミックスを取り上げ、これらが固い理由について述べている。
 私は、液体金属・半導体の研究にたずさわっているので、固体の固さを論じる際に、液体も含めて、より広く凝縮系の物理的性質という観点から考えているのが、本書の特徴であろう。本書は初学者向けに執筆したものだが、読者が凝縮系の物理学に関心をもつきっかけとなれば幸いである。


プロフィール        
(ほしの・こうぞう)
☆一九四八年 栃木県日光市生まれ
☆一九七七年 東北大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了(理学博士)
☆一九九三年 広島大学総合科学部教授
☆専門分野 物性物理学、特に液体金属の理論およびシミュレーション
☆主要著書 『物質は生きている』(共著、共立出版、一九九五年)、『量子力学・統計力学入門』(共著、裳華房、一九九七年)





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