自著を語る

『社会変容と女性:ジェンダーの文化人類学』
著者/窪田 幸子・八木 祐子(編著)
(四六版,234ページ)
2,400円(本体)
1999年/ナカニシヤ出版
 



 この論集の企画は、学会の友人仲間から立ち上がったものである。当時、学会では、博士課程を終えたばかりの同世代の女性研究者たちの活躍が目立つようになっていた。そんな私たちはいずれも、帰ってきたばかりのフィールドでの経験を人々に伝えたくてたまらない、そんな熱い思いを共有していた。
 そして、互いの研究発表に触発され、議論を重ねるなかで、いつの間にか教壇に立つようになっていた私たちは、「学生にもこんな世界を伝えたい」と思うようになった。この本はこうして生まれたもので、文化人類学の副読本として使われることも意図している。
 各執筆者の調査地はモンゴル、タイ、インドネシア、インド、シンガポール、中国、ニュージーランド、オーストラリアと多岐にわたり、その社会、経済、歴史的状況も多様である。にもかかわらず、いずれの社会においても女性たちは社会の枠組みの大きな変化に直面しており、その中で伝統維持の役割を担うとともに、その変化のきっかけをつくることもある。
 各論文を詳細に紹介する余裕はないが、社会における女性たちについての各論考では、伝統と近代の相克、国家とアイデンティティ、ポストコロニアリズム、開発と自然・・・などの現代の文化人類学における中心的な問題がとりあげられている。
 文化人類学は、参与観察を行い、異文化についての雑多なデータを体系的に提示する事を通じて、異文化理解を目指し、ひいては人間と文化の営み全体に迫ろうとする学問である。これまで当然のごとく男性中心的に描かれてきた世界に、女性たちの視点を提示することによって、これらの問題群が浮き上がってきた。
 このことは、女性が社会の変化に占める位置の重要さを示しているといえるだろう。ジェンダーの視点は文化人類学の知の体系に新たな視座を加えるとともに、我々の常識にも新たな視点を与えてくれる可能性を持つことを、本書は提示しようとしているのである。


プロフィール        
(くぼた・さちこ)
☆一九五九年東京都生まれ。
☆一九八八年甲南大学大学院人文科学研究科博士後期課程単位取得退学
☆一九九七年より広島大学総合科学部助教授
☆専門分野:文化人類学
☆著書:『採集狩猟民の現在』(共著、一九九六、言叢社)、『岩波講座文化人類学第四巻 個からする社会展望』(共著、一九九七、岩波書店)
☆趣味:テニス、スキー





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