フォトエッセイ(51) キャンパスの植物

若 槻 祐 子(Wakatsuki, Yuko)
生物圏科学研究科
生物生産学専攻
実 岡 寛 文(Saneoka, Hirofumi)
生物生産学部
環境制御論講座
           


 アッケシソウ 
Salicornia europaea
 
 ハママツナ 
Suaeda maritima
 


アッケシソウを手に持ち微笑む若槻祐子

精密実験圃場前のトウモロコシ畑にて

↑生物生産学部 精密実験圃場 ガラス室

塩生植物のサンプリング風景(安芸津港)
  
 
塩に強いアカザ科植物
 植物は、いつも適度な水、光、温度などの好適な条件の下で生育しているわけではなく、高温、乾燥、低温などの様々な劣悪条件下で生育していることが多い。移動することのできない植物は、体のつくり、生活の仕方などを変化させながら環境の変化に対して適応しているが、劣悪環境に適応できない場合には生育が貧弱になり、枯死する場合がある。
 例えば、塩害についていえば、台風時に潮風のため、多くの樹木や作物が大被害を受けたり、また、施設園芸などのビニールハウスで過剰の塩類が蓄積し、野菜などの収量が著しく減少することはよく知られている。しかし、瀬戸内海沿岸地域の河口や海沿いの沼沢地に広く分布しているホソバノハマアカザ、ハママツナ、アッケシソウをはじめとしたアカザ科、フクドなどのキク科の塩生植物(halophyte)などでは塩分が集積した塩類土壌や濃度の薄い海水下でも生育できる特性をもっている。
 瀬戸内海沿岸地方では、かつて、塩田を利用して塩が製造されており、その周りにアッケシソウが群落を作っていた。しかし、塩田による塩の製造が行われなくなり、宅地、工場の造成や沿岸工事のため、残された跡地にわずかに残っていたアッケシソウは消滅しつつある。アッケシソウは、北海道東の厚岸湾やサロマ湖で自生し、それが江戸時代に行われた塩と昆布の交易の際に荷物の中に種が紛れ込んで、それが瀬戸内海に持ち込まれ、塩田の周りに瞬く間に繁茂したといわれている。
 アッケシソウという和名も北海道の厚岸町で発見されたことに由来する。一年草で、五〜五○mほどに成長するが、葉は肉質で、形が棒状であるため、まるで細いサボテンのように見える。アッケシソウの若い植物体は緑色であるが、秋になると真っ赤に美しく染まるため、別名サンゴ草とも呼ばれている。
 アッケシソウやハママツナは、植物にとって有害なナトリウムなどの塩類を積極的に吸収するが、それは、植物体内の浸透圧を高めて海水の中でも水を積極的に吸収するためである。吸収したナトリウムは細胞の液胞に隔離し、ナトリウムの害を受けないようにしている。アッケシソウ属という属名は「塩の角」という意味で、体内のナトリウム濃度は一○%近くにも及び、中国の内陸部では今でも、こうしたアカザ科などの植物を燃やし、残った灰から塩を取っている地域が見られる。また、アッケシソウ属の種子は油をおよそ三○%含み、不飽和脂肪酸、特にリノール酸の含量が多いことが特徴で、アッケシソウから高品質の油脂を獲得することなども試みられている。食用にもなり、葉と茎がピクルスにされることもある。このように高塩条件下で育つ塩生植物の特性を利用して、不良環境下での食糧生産や砂漠緑化などの環境保全に応用できると考えられる。



   

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